いっしょに“おりがみ”

                      2023年3月1日

 『「いっしょにおりがみ」シリーズ』。今はもう製作していませんが、製作裏話をご紹介します。
初めて「いっしょにおりがみ」を手掛けたのは、1997年。もう四半世紀も前の話になってしまいました。点字図書「いっしょにおりがみ」シリーズは、現在も相互貸借で全国を飛び回り、多くの方々に利用していただいています。5月の節句頃には「こどもの日 こいのぼり・かぶと」、梅雨時には「あじさいとぴょんぴょんがえる」、十五夜の頃には「十五夜 たぬきとお月見」、12月には「サンタとクリスマスツリー」などなど。他にも「ひこうき」「つばめひこうき」「いれものいろいろ」など、19タイトルを登録しています。
“おりがみ”は「折り図」が著作物に該当することがあるそうです。「いっしょにおりがみ」は「折り図」(折り方)を工程ごとに示していますので、伝統おりがみのみを収録しています。とてもかわいらしい新作おりがみもあったのですが、このとき初めて「折り図が著作物に該当することがある」ということを知り、“おりがみ”という世界の奥深さを知ることになりました。

製作して25年以上も経てば点字の点がつぶれてきてしまいます。今のうちに複本を作っておこう! と点訳ボランティアさんに集まってもらうことにしました。コロナの影響で研修室等の人数制限があり、なかなか研修会もできない時期でした。人数制限ギリギリの24名以内限定で集まってもらい、一気に作業を進めようという作戦です。(しかし、これがなかなか思うようには進みませんでした……(後述))

在庫している点字本を参考にしながらの作業です。あらためて点字本を見てみると、点字の点は、つぶれてきてしまっているのに、“おりがみ”が外れたり、破れたりしている箇所が全くないのです。これは、とてもうれしいことでした。実際に“おりがみ”を触って理解してもらえるように実物大の“おりがみ”を貼り付けた点字本です。きっと“おりがみ”を触って確かめて折っていらしたでしょうに、“おりがみ”は綺麗なままでした。どれだけ大事に扱ってもらったんだろうって、利用してくださった方々にほんとうに感謝です。

複本製作は『「いっしょにおりがみ」シリーズ』をずっと手掛けてくださった点訳ボランティアのOさん指導のもと、1回2時間の作業です。点訳ボランティアさんたちに集まってもらう前に、点字と拡大文字のデータを見直し、プリントアウトして準備します。複本ではL点字を使うことにしました。
点字用紙は通常のB5サイズではなくA4サイズです。(その頃、L点字プリンターはとても調子が悪く、止まるたびに手作業で再スタートを繰り返していました。だましだましでなんとか全部を印字。この作業の後、完全に動かなくなってしまい、「いっしょにおりがみ」が最後のお仕事となってしまいました。)
拡大文字は、同じ文面を打ち直して、UDフォントに変えて印字しました。
折り紙は全色準備して、その他、千代紙・のり・両面テープ・はさみ・丸いシールなどなど、小道具を4セット。(注:100均の折り紙は不可!)
ここから点訳ボランティアさんの作業開始です。4つのグループに分かれて、それぞれ6名ずつ。折り紙を折る人、拡大文字を切って貼る人などなど、役割分担しながら作業していきますが、「たかが“おりがみ”…」と侮るなかれ! 工程ごとの“おりがみ”を折っていく作業はとても難しく、点訳ボランティアさんたちは真剣そのもの。指導されるOさんは、あっちのテーブル、こっちのテーブルからお呼びがかかり走り回っていました。「“おりがみ”には『縦目・横目』があって、その目を上手に使うときれいに仕上がるんです」という説明に、点訳ボランティアさんたちも「知らなかった~!」と、“おりがみ”の奥深さを再確認。ほかにも多くのことを教わりました。
2、3回で終わるだろうくらいに思っていたのですが、折らなければならない枚数は膨大で、ひとつひとつをサンプルにできるように「きちんと」折る! というのは集中力と根気のいる作業。これらの点字本をおひとりで作成されたOさんのご苦労は半端なものではなかったと思います。あらためて感謝です。
6回ほどの作業でなんとか完成。大変だったけれど、“おりがみ”という世界のほんわかした雰囲気に包まれて、和気あいあいと楽しい時間でした。現在公開している「いっしょにおりがみ」には、従来の点字版と、複製のL点字版が登録されています。

「いっしょにおりがみ」の製作過程は、パワーポイントデータで公開中。「全盲の折り紙作家」と言われた加瀬三郎先生の「ハローフォックス」を使って紹介しています。指導してくださったOさんは加瀬三郎先生の講演を聞かれたことがあり、「先生の手の中から黄色いきつねがうまれてくるようだった」と話されていました。
“おりがみ”の点字図書については、「おりがみサークルをつくりました」という方から問い合わせもありました。点字出版所からも出版されています。
この先、興味のある方々の手で“おりがみ”の点字図書が増えていくことを期待しつつ。

【豆知識】
11月11日は「おりがみの日」なのだそうです。……どこかで見たような日付…。
はい! 11月1日は「点字の日(日本点字制定記念日)」でした。
「11月11日は数字の「1」を正方形の一辺と見立て、1が4つで正方形の“おりがみ”の4辺を表しています。また、この日は世界平和記念日(1918年第一次世界大戦休戦条約が調印された日)でもあります」と説明されていました。心穏やかに“おりがみ”を折りながら、世界平和を祈りつつ。(Y)