こうして点字を学んできた

                         2022年5月1日

 2025年は、ルイ・ブライユが点字を考案して200年に当たる節目の年です。今、2025年に向けて、記念事業の準備が進められていると聞いています。その第1弾として、3月19日、第1回点字考案200年記念事業「記念講演会&シンポジウム」が、YouTube配信と対面によるハイブリッド方式で開催されました。シンポジウムでは、データを示しながら、点字図書の利用状況や点訳ボランティアの状況など、厳しい現実も垣間見ることができました。

さて、このような節目となる年を前に、私が点字とどう出会い、学び、そして今どう役に立っているのか、ここで改めて振り返ってみることにしたいと思います。

私と点字との出会い、それは小学1年の国語の教科書から始まりました。当時、盲学校には幼稚部がなかったため、すべての生徒が初めて点字に触れるのは小学部入学後でした。たとえ、入学前に教科書以外に読める点字の本があったとしても、点字を知らない子供たちには適うはずもありません。
国語の教科書の点字は、まず1文字ずつ「ム■カ■シ■ム■カ■シ■ウ■ラ■シ■マ■タ■ロ■ー■ワ」のようにマスあけした表記から始まり、学習が進むに従って「ムカシ■ムカシ■ウラシマ■タローワ」と、いわゆる文節単位の表記に徐々に変わっていきました。言うまでもなく、これは段階を追った触読修得のためのものであったと思われます。しかし、授業では、五十音や濁音、数字などを別とすれば、特別読みの指導やマスあけなどの表記の指導を受けた記憶がほとんどありません。点字使用の生徒たちは皆、教科書やまだまだ乏しかった点字図書などの読み物から、読みや書き方を自分なりに理解し身につけていったのだと思います。
このときの教科書とわずかばかりの点字の読み物が、私の点字の基礎を教えてくれた先生といっても過言ではありません。
ここで、当時印象に残っている点字の書き方のいくつかをご紹介します。ちなみに、今は当たり前の読点・中点は、記号そのものがまだ存在しない、そんな時代でした。句点は使われていたかもしれませんが、記憶が定かではありません。
(1) 見出しの大きな区切り(ページ替えなど)では、レ下がりの区切り線を使うことが多い。点訳ではほとんど見かけませんが、点字出版所製作の教科書などではしばしば見られる書き方です。
(2) 5マス見出しの変わり目では行あけすることが少ない。
(3) 音楽の教科書で、行頭から歌詞の番号を書き、その後の書き出しをそろえる書き方。「てびき」4版P164の例4で初めて採用された書き方です。私は、昔からこの書き方がすっかり染みついてしまっています。歌詞はこう書くのだと信じ込んでいました。
(4) 畳語符(繰り返し符号)。
山々、国々のように同じ単語を重ねて使う場合に用いる記号で、リ下がりで表します(濁音になる場合は5の点を前置)。今は『日本点字表記法 2001年版』以降既に削除されていますが、ずいぶんとお世話になった便利な記号です。個人的には、今でもメモを取るときなど重宝しています。この記号も、教科書などから自然に覚えて使うようになったのだと思います。なお、畳語符について詳しくは「全視情協掲示板<点訳・点字>に寄せられた点訳に関するQ&Aまとめ(2009年10月27日~2013年9月25日)」のQ45をご参照ください。

このほか、地理や算数・数学の教科書を通して、表や図、触地図などの読み取り方も学ぶことができました。お陰様で、今でも全く抵抗なく読むことができています。逆に、建物内に設置されている触図案内板を見て位置関係を確認した上で一人で歩くのが楽しみでした。

このように、点字の読み書きの基本は、教科書を中心に学んできましたが、読みについては私は劣等生でした。スムーズに読めるようになるまでには1年以上の時間を要した気がします。国語の時間、先生に指されて読まされるのが最も嫌な時間でした。学年が進むにつれ、教科書ではない本を読みたいといった欲求から、図書室で本を借りて読むようになりました。多少は読みの上達につながったかもしれません。図書室にはボランティアが点訳した図書と厚生省委託図書があり、点訳図書は点が磨滅した本が多く読むのにずいぶん苦労した思い出があります。そんなあるとき、2年先輩から「1冊の本をお互い交互に読んでみないか」と誘われました。先輩が選んだ本は、W.H.ハドスン著『緑の館』(全3巻)です。南米ベネズエラを舞台にした青年アベルと妖精リーマとの悲恋の物語です。読みに自信のなかった私は正直断りたかったのですが、そうもいかず一緒に読むことになりました。一つの見出しごとに交互に読んでいく方法で、二日間で全巻読み終えました。先輩はほぼつまずくことなく滑らかに読んでいたことに感心させられました。どうすればあのように読めるようになるのか、と思いを新たにしたものです。
一方、このころ、点字を書く速さと正確性を競うための大会(正式名称は不明ですが「全国点字競技会」だった気がします)が開かれていました。点字を書く能力の向上を目的に行われていたのではないかと思います。種目は、メの字と五十音をそれぞれ2分間でどれだけ書けるかを競う競技です。どんなに多く書けても誤字が多いと、当然ですが上位には入れません。幸いにも、私は先生からの推薦もあって学校代表の一人として参加したことがありましたが、上には上がいるもので、他校の生徒の速さには歯が立ちませんでした。今はもう開かれていないようですが、それなりに意義のあった大会だったのではないでしょうか。

多くの視覚障害者にとって点字は『日本点字表記法』ではなく、学校教育の中で修得し、社会の中で情報入手やコミュニケーション手段として使用されています。厚生労働省の平成18年身体障害児・者等実態調査によると、点字ができる視覚障害者の割合は、手帳所持者(31万人)の12.7%。平成8年と13年の調査においてもその割合は約1割程度とほぼ変わっていません。これを、わずか1割とみるか1割もいるとみるか、議論の分かれるところですが、少なくとも私が小中学生の頃は、今よりはるかに多かった印象を持っています。ですから、実感としては「わずか1割しかいない」です。一方で、サピエの利用状況を見ると、令和3年度のダウンロード数が約61万タイトル、10年前に比較して約10万タイトル減少しています。これだけを見ると、点字の将来を危惧してしまいますが、決して悲観することはありません。点字は何も本を読むだけのために存在しているわけではないからです。文書の作成や情報入手の手段としてパソコンやスマホが主になった今でも、私にとって点字は、欠かすことのできない文字として生活に大きく役立っています。その具体例をいくつか列挙してみます。
(1) メモを取るための最も簡便な方法
晴眼者が不要になったチラシや印刷ミスをした用紙の裏にササッとメモを書くような感覚でしょうか。私は、1行20マス5行、左にロール紙とメモ用紙をひっかけるためのフックがついた「テレホン点字メモ器」(既に生産完了、ロール紙のみ販売)を愛用しています。ササッとメモして、フックにかけておくだけ。最も簡便で便利な方法、もう手放すことができません。一時パソコンでメモをしていた時期がありましたが、気がつくと点字のメモに戻っていました。
(2) 同型のものを識別するための点字
たとえば、CDやDVD、缶詰などの容器、書籍、薬…、などを識別するために点字を使っています。書籍については、同じ版型の本でなくても、後で確認できるよう、タイトルを背表紙などに張り付けたりメモを本に挟み込んでいます。
(3) 街中での点字サイン
外出時や移動時、駅の券売機・運賃表・手摺の点字表示、建物内の触図案内板・点字案内板、ATMの点字表示などの点字サインは心強い味方です。視覚障害者の自立と社会参加には欠かせないものです。だからこそ誤りは許されません。
また、洗濯機などの家電品への点字表示も役に立っています。
(4) 学習や調べ物の手段
一般に、小説などの読み物や雑誌、ニュースなどの速報性の高い情報は録音図書、ある分野の事柄についてより掘り下げて知りたい、辞書で調べ物をしたい場合は点字図書、がそれぞれ適していると言われています。私も基本的には同様の使い分けをしています。大学時代、授業で使用する教科書や資料は点字、理解を深めるための参考図書は録音、のように実際に使い分けをしていました。
(5) 選挙の点字投票
大正14年の選挙法改正において「点字は文字と見なす」と規定され、昭和3年の選挙で初めて点字投票が実現しました。以来、今日に至るまで晴眼者と同じく視覚障害者も自らの意思に基づき点字投票が行われてきた意義は極めて大きいと言えるでしょう。

点字は、視覚障害のある者にとって、唯一、自由に読み書きできる文字として、近代盲教育の発展と社会参加に寄与したことは紛れもない事実です。ルイ・ブライユが考案し、先人たちによって築いてきたこの点字文化を絶やすことなく、これからも守り続けていく責務が、私たちにはあるように思います。 (I)