ピクトグラムと点図の話

                             (2021年9月1日)

オリンピックが終わり、パラリンピックの熱戦が続いています。
オリンピックで話題になったピクトグラム50個の連続パフォーマンス。
これ全部知ってる! という嬉しさと、なんとなく複雑な思いとで観ていました。

一昨年製作した

「ソメイティのこのピクトなーんだ」
「ミライトワのこのピクトなーんだ」

この点字本には、73種類すべてのピクトグラムが点図ではいっています。
一昨年、オリンピック・パラリンピックのピクトグラムが発表されてすぐに、「これを点図に!」となったわけではありません。
あるオリンピック関連の本を触読校正中に五輪のマークの点図がありました。
触読校正者が点図を触りながら、

「これが五輪のマークだったのねー。五つの輪ということは知っていたけれど、こういうふうに重なっていたんだ」

と。
ちょうどそのころ、オリンピックの陸上競技、アーチェリー、フェンシングなど33競技50種類、パラリンピックの陸上競技、射撃、バドミントンなど22競技23種類の全73種類が発表されていました。

「とても単純な図形。ピクト触ってみる? おもしろいかも」

というとても安易な気持ちで取り組むことを決めてしまいました。
一人一枚以上描く! 約30人くらいの共同作業です。
2時間程度の研修で、“ほぼ”描けるようになります。
(下手な人は、ほんとうに下手で(笑)。修正する方が大変だったりしましたが)

大騒ぎして作成した点図73枚。
ところが、できあがった点図を見て、

「まったくわからない……」
「どこが?」
「このマルは何? この線は何?」

ピクトグラムは頭と手足のパーツで作られていて、胴体がなかったのです。
バラバラのパーツを触りながら、人間の形にする。
慣れるまでは難しかったようでした。
慣れてくると、イメージできてくるようで、次の問題は

「頭がマル。ボールもマル」

だったら、ボールには「ボール」と文字を入れよう!
と区別することに。
卓球台は一本の線なので、「タッキューダイ」と付記。
馬術のように、まったくイメージできないピクトについては

■■((ミギムキ■ウマノ■マエハンシンノミガ■エガカレテ■イル。■■ウマノ■ウエニ■ボーシヲ■カブッタ■キシュガ■ノッテ■イル。))

などなど、どうしても理解できないものに、説明を加えていきました。

「ソメイティのこのピクトなーんだ」
「ミライトワのこのピクトなーんだ」

の点字本を、途中から読んでしまうと、きっと読めないと思います。
最初に、

■■トーキョー■2020■オリンピック・■パラリンピック■スポーツ■ピクトグラムデワ、■ドータイガ■シロク■ヌケテ■イマス。■■ツマリ、■ドータイワ■ナク、■ホトンドノ■ピクトグラムノ■センシュワ、■トーブ・■ウデ・■アシダケデ■ヒョーゲン■サレテ■イマス。■■タトエバ、■タッキューノ■ピクトグラムデワ、■センシュワ■トーブ・■ウデ(ラケットヲ■モッテ■イル)ダケデ■ヒョーゲン■サレ、■ソノ■シタニ■タッキューダイガ■チョクセンデ■アラワサレテ■イル、■ト■イウ■カンジデス。■■ソノ■タメ、■ピクトグラムニ■ヨッテワ■トーブト■アシトノ■アイダニワ■カナリ■クーカンガ■アリマス。■■テンヤクショデワ■テンヤク■ソーニューフデ■ズノ■セツメイヲ■クワエマシタ。

と説明文を入れました。
ここを理解してもらってから読み進めてほしいな、という気持ちを込めて。
そして、その歴史を添えました。少し文章をかえて書きだします。

(ここからです)

オリンピックピクトグラムは、1964年の東京オリンピックでうまれました。世界中の人々が言語を問わずだれでも理解ができるように、「情報伝達」という点を重視して作られました。2020年版は、その考え方を継承するだけでなく、さらに発展させ、躍動するアスリートの動きを魅力的に引き出すデザインとなっています。
2020年版のピクトグラムでは選手の胴体が白く抜けています。64年版も抜いているように見えますが、よく見ると白いランニングシャツ。このことから、2020年版でも胴体を抜いた方が身体の動きが強調されてダイナミックさを表現できる、という発見につながったそうです。

(ここまでです)

今は、動くピクトグラムも製作されています。この動くピクトグラムも、パントマイムピクトグラムも、「点図」などで表すことはできないけれど、静止ピクトグラムは、多少なりとも伝えられたかなと、思いたいです。

また、ウオーキングを楽しまれている中途視覚障害の方からは、
「自分が歩いたコースを触地図にしてほしい」
という依頼がきました。
希望される地域の観光地図をベースに、実際に歩かれた山や、利用した駅、立ち寄った温泉などを書き込みました。とても、全部を書き込むことはできませんでしたが、ある一市を一枚の地図にして、お渡ししました。

「見えていた頃の距離感が戻ってくるようです」

というお返事をもらって、「次は……」という希望をいただき……(汗)。
さあ、また地図を探そう! と続いていきます。

距離感……。本土と離島の位置関係がわかるだけの地図。
「私の島はこんなに離れていたの?」
という距離感を感じてもらえればいい。

点図については、いろいろな考え方があると思います。
とても簡単な迷路でも、触読ではなかなか先に進めませんでした。
ピクトグラムも、全然わからない、という意見も聞いています。

それでも、これからも、希望する方がいる限り、作れる範囲で、自己満足にならないように、点図を描いていきたいと思います。
点図は、目的を絞って、どの線を残すか、ということを考えながら描いていきます。
点字用紙1枚の中で何を表せるか、どう描けるか、というパズルのような作業です。
向き・不向きはありますが、絵心がなくても描けます! もしかするとはまるかもしれません。
是非、トライしてみてほしいなと思います。
それから、とても大切なこと―― 「点図は、必ず触読校正を!」 わかってもらえない点図では意味がありませんので。   (Y)