凸面点字器を使用したオンラインでの講習会

                           2022年7月1日

昨年11月に対面で、この5月に2度オンラインで、電通ジャパンネットワークの社員の方への点字講習を行う機会がありました。

電通ジャパンネットワークでは、SDGsの実践の一環として、自社から出る使用しなくなったプラスチックを再資源化し、その再資源原料から製造(アップサイクル)された製品を自社で利用する循環の仕組みをつくりだすという取り組みを行っておられます。環境に配慮しつつ、モノにアイデアを加え、あたらしい価値を生む。さらに、みんなが参加できる仕組みをつくり、より良い循環を生むという「で、おわらせないPROJECT」です。

そのプロジェクトで、今回、使用期限を迎えた防災ヘルメットやクリアファイルをアップサイクルして、名刺専用の点字器を作られました。点字で名前や連絡先を書くことで、さらに気づきの輪を広げたいと考えておられます。
作成された点字器(愛称:ten・ten)は、Lサイズ点字の規格で、4行14マスの凸面点字器です。防災ヘルメットで点字器が、クリアファイルで点字器のケースができました。点字器には名刺のサイズぴったりの枠があり、そこに名刺を入れて、上から押さえるだけで名刺が固定します。
これまでも名刺に点字を付けることはなさっていたのですが、それを自分で作ろうというわけです。

凸面点字器については、すでに皆さんご存じのことと思います。従来の点字器は、点字を裏から押して穴をあけるようにして書く凹面の点字器でしたが、点筆の先を凹の形にして点字器に付けた凸の点に押し当て、読む形と同じ点字を書くようにしたものです。2017年に完成したばかりです。

凸面点字器は、すでに凹面点字器で点字を書いている方には使いにくいと言われます。書き方が全く異なるからです。
マスの周囲が直線の長方形ではなく、一マスの中の1点1点の周囲が丸みを帯びていて、その丸みに点筆を押し当て、その位置から下に押します。ゆっくりと1点1点確実に押すことがきれいな点を書く唯一のコツです。早く書くことはできませんが、確実に書くことができます。これが点字を初めて体験する人が点字を書くのに、ぴったり合っているのです。
1点1点確認しながらしっかり書く。点字の形を覚えるのにも役立ちます。

小中学校での点字体験にも適しています。学校では、一コマ45分や50分の中で、点字のしくみを説明し、点字を読んでみて、そして自分の名前を書いてみるというのが典型的な内容になっていると思いますが、点字を読んでみたところで、「さあ、これから点字を書いてみましょう。点字はポツポツと出ているところを左から右に読んでいきますが、書くときには、裏側から点を押して書いていきます。読むときとは逆に、右側から、これまで読んだのとは裏返しの字を書いていきます。読むときと書くときはまるで逆になりますよ」と説明し、これまで読んでいた点字一覧表を隠し(または、裏返し)、あらたに凹面の点字一覧表を出して書いてもらっていました。みんなパニックです。
どうにか時間内に書き終えても、結局、書く方も読む方も中途半端で、慌ただしく時間が終わってしまうというのが実情でした。
それが、凸面点字器では、時間内に十分に書いて読むことができ、ゆっくり体験してもらえるのです。点字体験終了後も、家庭内やお店などで、点字の付いた製品を読んでみようという意欲に繋がります。

電通ジャパンネットワークでの点字名刺づくり講習会は以下のように進めました。時間は90分です。

1.点字とは
「点字は視覚障害者が、おもに指で触って読んだり、書いたりする文字です。街中や生活の中にも点字を見ることができます。(エレベーター、炊飯器、ボンドなどの写真を紹介)。このほかの例も、関心を持って探してみてください。」と説明します。

2.点字を書く道具
名刺用点字器と点筆の確認をし、一般的な形の凸面点字器、凹面点字器も紹介して特徴を説明します。

3.点字のしくみ
「マス」と一マスの①②③④⑤⑥の点の説明をします。

4.触読文字としての点字の特徴
(点字印刷した「点字名刺の例」を見本として配布しています。)
「点の高さが十分ある、点の大きさが揃っている、字の間違いがない」この条件を満たさないと読むことができないことを説明します。サンプルは点字プリンターで印刷したので、点が大きくて、揃っています。点筆で書いた場合は、これより点は小さくなりますが、一つ一つの大きさを揃えるようにすることを強調します。

5.点をきれいに書くコツ
点字は触読文字です。触って読める点を書くには、
点筆をしっかり持つ(親指、人差し指、中指でしっかりおさえる)
上からまっすぐ下ろす
①②③④⑤⑥の順に書く
ことが重要であること、それぞれの点の書き方にはコツがあることを言います。
①の点 左上すみ
②の点 左はし 中央の膨らみ
③の点 左下すみ
④の点 右上すみ
⑤の点 右はし 中央の膨らみ
⑥の点 右下すみ
に、しっかり付けてから点筆を下ろすことを強調し、メの字を2分間書いてもらいます。
メの字にこめた石川倉次の思いを説明し、触ってみて、触って分かるきれいな点になっているか自分で確認してもらいます。
点字は「点」でできているので、点が出ていなければ全く違う文字になること、墨字は線でできているので、一部出ていなくても、形が少々異なっていても読むことができるが、点は、「あるか、ないか」なので、「高さのある、大きさの揃った点」が必須条件になること、上から垂直に正しい位置に点筆をおろせば、誰でも書けることを強調します。もう一度メの字の練習を2分間します。

6.清音・濁音・拗音の説明
母音・子音のしくみ、二マス使って書く文字の説明をし、点字一覧表で自分の名字・名前の文字を確認してもらいます。

7.氏名を書く際のポイント
① 現代仮名遣いで正しく書く
② 現代仮名遣いと異なる点がある
③ 名字と名前の間は一マスあける
この3点のポイントを説明します。具体的には以下のようになります。
① 現代仮名遣いとは、漢字を正しく仮名にすること
大山 ⇒ オオヤマ、石塚 ⇒ イシヅカ、徹 ⇒ トオル など
② 点字の仮名遣いには現代仮名遣いと異なる点がある。仮名にしたときに「う」となるのびる音は長音符を用いることを説明します。
佐藤(さとう)⇒ サトー
京子(きょうこ)⇒ キョーコ など
③ 名字と名前の間は一マスあける

8.自分の名前を書く
14マス・4行を印刷した「マスの表」と、マスの中に6点の白丸を印刷した「点マスの表」を手元に準備しておきます。
マスの表に自分の名前を仮名で、3マス目から書く。その際、二マスの文字は二マス使用して仮名で書きます。
点マスの表に自分の名前を点字の形で書く。
点マスの表を見ながら、実際に点字用紙(名刺の大きさの点字用紙を準備)に点字で書く。(5分間)
間違えずにきれいな点字で書けたかを確認する

9.数字の説明
数字の仕組みを説明し、仮名と数字とアルファベットの関係を説明します。

10.電話番号を書く
電話番号の間のハイフンは③⑥の点を用いること、ハイフンの後ろには数符を書くことを説明します。
点字名刺の見本を見ながら、書き方を説明します。
名前の時と同じようにマスの表と点マスの表に、自分の電話番号を書き、その後、点字用紙に書いてもらいます。(5分間)

11.会社名・所属等を書く
会社名は言葉のまとまりごとに一マスあけて書くことと、会社名にアルファベットがある場合の書き方を説明します。
会社名は14マスに入るように工夫し、会社名もマスの表、点マスの表に書いてみます。

12.名刺に点字を書く
いよいよ、名刺に点字を書きます。
これまでの注意点に気をつけながら、点マスの表を見て書きます。(8分間)

名刺は間違えては使用できませんから、間違えたら新たな名刺に書くように強調します。正しい点字で、触って読める点字名刺を作成するために練習を重ねてくださいとお願いしました。

以上のように、点字の仕組みの詳しい説明や実際に名刺に書くことの時間は少なかったのですが、1点1点きれいな点を書く、間違えないで書くということにポイントを置き、高さのそろったきれいな点が書けるように練習することを強調しました。
進行役の方がサポートしてくださり、タイムキーパーの役割もしてくださったので90分間で、講習を終えることができました。

電通ジャパンネットワークの点字器のセットには、点字一覧表が付いています。そこには、名刺用点字器で作成した名刺の例があり、マスあけや長音符、数符、ハイフンなどのポイントも書かれています。講習会ではその例を点字プリンターで作成した点字名刺の見本を受講者の手元に置いています。
準備段階では気付かなかったのですが、氏名や会社名の中に「ティ」や「フィ・ファ」が必要な方が複数おられました。特殊音は必要ないとすべて省略するのではなく、代表的な文字は簡易な点字一覧表の中にも入れておいた方がよいのかもしれません。

終了後のアンケートでは、たのしく学ぶことができた、子どもと一緒にやってみたい、日常生活で点字を意識するきっかけとなったなどの感想をいただいたほか、今日の体験を活かし、担当している企業にも働きかけ、広めていきたいという声もいくつかあり、今後の広がりを期待することができました。

ルイ・ブライユが点字を考案して2025年で200年になります。現在、点字に携わる団体が協力して点字200年の記念イベントに向けて活動を開始しています。今回電通ジャパンネットワークで行った点字体験の活動がさらに広がれば、点字に気付き、点字を読める人も増えていきます。そして、点字関係者だけでなく、小中学生から一般の方も含む多くの方々とともに、点字誕生200年のお祝いができることを願っています。  (M)