広報誌を点訳する

(2021年7月1日)

点訳フォーラムには、毎日点訳に関する質問が寄せられていますが、その中で、自治体等の広報誌を点訳されている方からの悩みもたくさん届いています。
私が所属する会でも、毎月いくつかの広報誌を点訳・音訳していますので、点訳フォーラムでいただいたご質問に加え、私自身が点訳や校正作業をしながら感じていることも含めて、広報誌点訳のあれこれを書いてみたいと思います。

広報誌には、生活に密着した多くの情報をその時々の社会の動きに合わせて、視覚的にも分かりやすく、早く伝えるという目的がありますので、イラストや記号を用いて簡略化されたり、略記が多用されたり、また、耳慣れない新語やカタカナ語が多く登場します。記事ごとにレイアウトを決めて、毎号できるだけ同じ順序で点訳しようとしても、墨字のスペースの関係で思わぬ所に移動していたり、突然シリーズの扱いが変わったりします。自治体によっては点字版の枚数に制限がある場合もあって、全体のレイアウトやイラストの処理には、毎回、頭を悩ませ、知恵を絞っての作業になります。
また、各種行事や催し物の申し込み締め切りが過ぎた頃に点字広報が届いたのでは役に立ちませんので、正確さに加えてスピードも求められます。

全ての点訳がそうですが、点訳は墨字を点字に置き換える作業ですので、点字の規則の習得だけでなく、墨字の原文を正しく読み、正しく理解することと、それを点字の規則に照らし合わせて適切に点字化することが、広報誌の点訳には特に求められます。

広報誌は小説・エッセイなどの文学作品とは異なり、効率よく伝えたいために、国語辞典に掲載されていないような、特徴的な表現もよく見かけます。
「定員:各日45人」「返信用封筒の表面にご自分の住所を記入してください」「封筒の裏面に~」これらをどう読んだらよいかという質問がありました。
「おもてめん」「うらめん」については、「点訳に関する質問にお答えします」の第1章その6に掲載していますので、参考になさってください。「各日」は、「カクジツ」が標準的な読み方ですが、「カク■ニチ」や「カク■ヒ」と点訳している所もあるようです。「隔日」という表現も見られることが多いので、誤解を避けるという目的もあるのでしょう。
送り仮名を省略したような書き方も見られ、そのまま音読みしたのでは意味が通じない時など、許容の範囲で送り仮名を補って点訳する場合もあります。当て字も多く、「健康で幸福」ということを「健幸」と書いたり、「共同」と「協働」、果ては「共同して創造する」を「共創」と書いたり、どこで点訳挿入符を入れるのか、毎月入れたらいいのか、省くのか、悩みはつきません。
また、広報誌に登場する方々の名前も間違いなく読むことが求められます。27万人の市、5万人の市、8000人の町では、人口が少ない市町村の広報誌ほど、ご近所の方が登場する機会が多くなります。そのような方々の読みは間違えてはいけないのですが、調べようがないので、広報誌の点訳を引き受ける段階で、人名、できれば地元の地名にも必ず読みを付けていただくようお願いしておきます。その効果もあったかどうか不明ですが、私たちが引き受けている広報誌では、すべての人名にルビが付くようになりました。墨字版を読む人にも分かりやすくなったと思っています。

原本の記号をそのまま点字の記号に置き換えられないのは、小説や読み物などでも同じですが、広報誌では特に※や*が用いられていることが多いようです。
次のような「※」はどう点訳すればよいのでしょう。

1.新型コロナワクチン接種予約が始まります
ワクチン接種を希望される方は、順次発送中※の個別通知が届いたら接種予約をお願いします。詳しくは個別通知をご覧ください。
※80歳以上:4月15日発送済み、75~79歳:4月20日発送
(問い合わせ先)保健福祉センター
2.毎週月~土曜日午前8時30分から午後5時 ※水曜日は正午まで
3.悪質商法や多重債務問題(面談のみ)クーリングオフなど ※予約優先

これらはすべて、点字の星印を使うことはできない事例になります。
1.は、文中注記符を用いる例です。「発送中」の直後に文中注記符を入れ、「~ご覧ください。」まで書いたら、次行3マス目から文中注記符の記号を書き、一マスあけて、「80歳以上~」と入れるのがよいのではないでしょうか。広報誌では、注はできるだけ直後にいれたほうが分かりやすいと思います。この場合のコロンには、第2小見出し符は用いられませんので、一マスあけで十分だと思います。
2.と3.の※は、前の記載内容の補足や注意という程度の印ですので、点字の星印を用いることはできません。広報誌にはこのような書き方がとても多いのですが、補足説明と解釈して、第1カッコで囲んで書くか、前に読点を補って、一マスあけで書くか、または、二マスあけで書くかいずれかになると思います。
ゴゴ■数5ジ(スイヨービワ■ショーゴマデ)
クーリング■オフナド■■ヨヤク■ユーセン
クーリング■オフナド、■ヨヤク■ユーセン
など、文脈によって判断することになります。

現在は新型コロナウイルスの情報が多いのですが、納税の季節になると、毎年決まって、確定申告のチャート図が出てきます。「はい」「いいえ」を選択しながら前に進み、自分は確定申告が必要かどうかを判断する図です。ひとつ定型を覚えると応用できますので、「てびき3版指導者ハンドブック第5章編」40・41ページを参考に点訳をされるとよいと思います。
また、介護保険額や医療費負担額など、漢字・仮名で書かれた長くて複雑な式もたびたび出てきます。
非課税基準額の見直しの説明に、《31万5千円×(1+控除対象配偶者または同一生計配偶者+扶養親族の人数)+18万9千円で求めた金額以下》のような式が金額の違いだけで繰り返し書いてありました。漢字・仮名で書かれた式で演算記号も仮名で「カケル」「プラス」などと書く場合は、便宜的に式中のカッコを第1カッコで書いていますが、このように基本となる部分が繰り返される場合は、はじめに、点訳挿入符で、《(1+控除対象配偶者または同一生計配偶者+扶養親族の人数)をA.とする》のように断って書くとすっきりすると思います。

最近は、必ずと言っていいほど、QRコードが付いています。これも省略してしまうのではなく、墨字版との整合性やコードを利用されることも考えて、「このページ(または、ページの下など)にQRコードが付いています」ということをできるだけ書いています。

このように、次から次と際限なく書き出せるほど、あらゆる言葉、記号、レイアウトなど点訳上の悩みが詰まっているのが広報誌だといえます。
点字としての読みやすさ、わかりやすさを考えるには、常日頃、点字そのものを読み親しんで、点字で読むときの特徴についても感覚を研ぎ澄ましておくことが大切になってくると肝に銘じています。

悩みや苦労ばかりのようですが、広報誌を隅から隅まで読むことができる(読んでしまう)という役得もあります。点訳に関わらなかったら、おそらくゴミの分別や災害時の避難方法、ハザードマップ、市の歳出や歳入についてこれほど詳しくならなかったでしょうし、議会で取り上げられている内容にも関心がなかったでしょう。
広報誌の点訳は、社会の動きや自分の住む市町村に関心を持ちながら、墨字と点字の特徴もおのずと身につく、興味がつきない活動です。  (M)