校正表の作成について

(2021年8月1日)

 校正に携わっておられる方は、何らかの形で校正表を作成されることと思います。せっかく誤りの個所に気づいても、校正表への記入が不正確だったり、配慮に欠ける書き方になってしまっては指摘事項が伝わらず、必要な修正が行われない可能性があります。そこで今回は、校正表作成に際して心がけていることについて書かせていただきます。

全視情協が発行する「点訳資料校正基準2015年版」には、校正表の作成について、(1)校正表の種類と特徴、(2)記入に際しての留意点が記述されています。
校正表の種類としては、①墨字で校正表に書き出す、②点字で校正表を作成する、③墨点字を印刷した用紙に書き込む、④点字印刷したものに墨字で直接書き込む、⑤BESXで作成する、⑥その他、テキストデータや点字データで作成する方法などが挙げられ、それぞれの記入例とともに、種類ごとに長所と短所が記載されています。発行後6年が経過していますので、今ではあまり用いられなくなった方法も含まれているかもしれません。私の職場ではもともと点字編集システムを使用していたことから、最近はもっぱらBESXで校正表を作成しています。

記入に際しての留意点としては、
①指摘箇所を明確に、ページ数や行数は間違えないように指摘します。
②指摘事項を正確に、正と誤を逆に書いたりしないように注意します。
③指摘は分かち書きの単位によって行うことを原則とします。文節や単語の一部を書きだしたり、記号類を省略するなどの不完全な形では、指摘箇所やその理由が正しく伝わらない場合もありますので、そのような指摘はできるだけ避けるようにしましょう。
④明らかな誤りはすべて指摘します。同じ誤りをくり返している場合でも、すべての個所のページ数・行数がわかるように記載します。
⑤表記に幅がある箇所を指摘する場合は、指摘の理由や根拠を備考欄に記入するとよいでしょう。
⑥図表やグラフなどについての指摘は言葉によるのが困難な場合、ひな形などを添えることも有効です。
なお、校正中に気にかかったことがある場合は、その個所にすべて付箋を付けたり、メモをしておくようにすれば、校正の見落としを防ぐことができます。また、備考欄や余白に指摘の理由や根拠を記入する際は、独断に陥らないようにし、点訳者の意図を十分に配慮するよう注意します。

以上の留意点のうち、私が特に心掛けているのは⑤の備考欄を活用して、点訳者に指摘の意図を伝えることです。校正に関することで点訳者との間に行き違いが起こり、それを防ぐためにようやく気付いたことでした。

ある点訳書で、誤「大輸送■船団」、正「大■輸送■船団」という校正記録を記入し、その後、同じ方の別の点訳書で、誤「大■特価■商品」、正「大特価■商品」と記入したところ、「前回の指摘に従って区切って書いたのに、また指摘されてしまった」といわれました。備考欄で「輸送船団というマスあけを含む複合語全体にかかるので、大の後ろを区切って書く」と説明し、合わせて「てびき」の参照ページを示せば理解の助けになったのではないかと気づかされた出来事でした。
またカッコについて、誤「来年は(売り上げを)■増やしたい」、正「来年は■(売り上げを)■増やしたい」と指摘したところ、同じ方の次の点訳書では前の語の注釈的説明のカッコの前がほとんどマスあけされていました。備考欄で「前の語の説明ではなく、後ろの文脈にかかる」と説明すれば避けられたことだったかもしれません。
こうして、校正での指摘がその後の点訳に影響する場合があることがわかって以降、指摘の理由や根拠についてコメントを書き添えるようになりました。「残存」の読みを「ザンゾン → ザンソン」と記入したときには「辞書には「ざんぞんとも」とされているが語釈がないので一般的な読みのほうを採用する」と記し、同様に「減殺」の読みを「ゲンサツ → ゲンサイ」と記入したときには「辞書には「げんさつ」は「げんさい」の慣用読みと書かれているが語釈はないので一般的な読みのほうを採用する」と記しました。
読みの指摘をする際にはこのほか、「前出のルビによる、第2巻9ページの読みに合わせる、人名はシリーズ第1巻の読みに合わせる」などと必要に応じて書き入れています。
一方、仮名遣いや分かち書きに関する指摘の根拠としては、「点訳フォーラム・点字表記の語例」と記しています。漢字1字2拍の語の切れ続きには迷うことが多いのですが、「性表現 → 性■表現」と指摘したときには「点訳フォーラム・点字表記の語例「性■描写」からの類推による」と記しました。指摘したい語がそのまま掲載されていなくても、類推が可能なことが語例集の特徴です。
その他、「数十」を「スージュー → スー数10」と指摘するときには、「当施設での申し合わせによる」と書き添えて理由を示します。

このようにコメントを記すことによって独善に陥ることが避けられますし、点訳者の方にもおおむね好意的に受け入れられていると感じています。これからも精度の高い校正を目指し、良質な点訳書の製作に寄与したいと思います。 (T)