点訳と校正の関係

(2021年4月1日)

点訳フォーラムには、ほぼ毎日質問が寄せられています。
点字表記の基本的な質問から、回答に迷うような質問までさまざまですが、その中に、「校正で直すように指摘されたが、直さなければいけないか。」とか、「校正でこのように指摘したいが、どうか。」といった質問が、具体的な語例を添えてときどき寄せられます。

私が点訳を始めたころは、点字触読の先生が素読みで校正を行っていました。その後、校正は「原文との照合」が必須であるとの考えから、原文照合校正に変わりましたが、多くの施設・団体では、一人か、ごく少数の校正の専任者によって校正が行われていました。点字タイプライターや点字器を使って点訳書を作っていた時代には、その体制でこなせる程度の点訳書しかできなかったように思います。
その後、1980年代後半にパソコン点訳が行われるようになり、点訳と校正のバランスが大きく崩れました。せっかく今までに比べて早く多くの点訳ができても、校正の段階で停滞してしまい、利用者に提供するまでの時間の短縮につながらないという状況が続きました。そこで、多くの施設・団体では、点訳者が校正の役割も担うようになってきました。

今までこのブログに、校正に関して2回採り上げられています。そこで今回は視点を変えて、点訳と校正の関係について考えてみたいと思います。

1988年にスタートした「てんやく広場」によって、各施設・団体で製作された点字データをネットワークで共有するようになり、データの標準化が求められるようになりました。そのため、校正についても全国規模でルールが定められ、必要な改良を重ねながら今に至っています。

校正についての重要なポイントをいくつか挙げると、以下のようになると思います。
1.点訳との関係は、上下ではなく、前後の関係であること
2.原文照合を行うこと
3.チェックする主な点は、①誤字・脱字等原文と照らしての誤り、②点字表記上の明らかな誤り、③各施設・団体での取り決めと照らしての誤り、④同一タイトルでの表記の一貫性、などであること

1.について、昔の校正には指導的な要素もあったと思いますが、現在の校正は、より正確な点字データを作るために、点訳のあとに行う作業との位置づけです。
2.については、今は常識です。
3.の中で、「②点字表記上の明らかな誤り」とあえて書いていることは重要な点です。漢字の読みにしろ、点字表記にしろ、幅があるものについてはチェックしないということです。ここを取り違えると、冒頭の質問のようなことになったり、「1校の指摘で修正したら、2校では元の表記に直すようにとの指摘があって困った。」というような事態になり、場合によっては、点訳者と校正者とのトラブルに発展しかねません。

『点訳のてびき第4版』第1章「その6 点訳・校正の位置づけ」に、「校正(原文照合)→修正→点検」と図示してありますが、「2 校正」には、「各施設・団体の担当者による校正表のチェックを経た後、校正表に基づいて修正を行う。」とあります。この「校正表のチェック」が極めて重要だと思います。校正表がそのまま点訳者に渡されて修正をするのではなく、校正表に書かれた指摘が妥当かどうかを施設・団体の立場でチェックし、「指摘どおりに修正する」「指摘があっても修正しない」という判断をする過程が必要です。

全視情協が発行する「点訳資料校正基準2015年版」には、以下のような記載があります。
校正(原本照合)→校正表チェック→修正→点検
さらに、同書では「校正の回数と手順」の中に、「校正表の指摘が妥当かどうかチェックする」と具体的に記載しています。

私が施設に関わっていたときには、これを「判定」と呼び、「校正→判定→修正→点検」と進めるようにしました。判定には職員と、施設が特にお願いした2名の点訳ボランティアが当たり、常に相談しながら作業を進めました。また、判定は施設の名のもとに行うため、担当者の氏名を公表しないようにしました。これによって、点字データがより均質なものになり、また、校正者の負担が軽減され、点訳者と校正者とのトラブルを防ぐことができたと思っています。

この「校正表のチェック(判定)」は、施設では可能でしょうが、ボランティア団体ではかなり難しいとは思います。しかし、せめて、点訳者と校正者が1対1の関係で向き合うのではなく、何かあればすぐに相談するという体制(雰囲気)作りをする必要があるのではないでしょうか。点訳と校正それぞれの役割を認識し、分担と連携によって進めていくことができれば、問題が少しずつ解決するのではないかと思います。

各施設・団体それぞれに歴史や経緯があると思います。その中で工夫をして施設・団体に合った手順を確立し、私たちの共通の目的である「標準化された点字データを、より正確に、より早く、より多く提供する」ことを目指していきましょう。

※「点訳資料校正基準2015年版」の墨字版は、以下からダウンロードできます。
全視情協ホームページ(http://www.naiiv.net/)「サピエ関連資料」
点字版は、「サピエ図書館」にあります。                   (F)

 

点訳フォーラムからのお知らせ
1.すでにお気づきのことと思いますが、各ページの右上に「お問い合わせ/質問受付」とならんで、「点訳フォーラム活用のヒント」を新たに掲載しました。
「点訳に関する質問にお答えします」と「点字表記の語例」を効率的に活用するためのヒント、読み上げソフトで利用する際の注意点をPDFとBESにまとめています。
また、「点字表記の語例」もシステムを変更し、検索結果が即表示されるようになりました。ヒントを上手に活用して、検索スピードもアップした「点訳フォーラム」を快適にご利用ください。

2.「点訳に関する資料集」に「点訳フォーラムQ&Aまとめ2」を収載しました。現在収載されている「Q&A」に続き、2020年4月から2021年3月までに「点訳に関する質問にお答えします」に掲載したQ&AをまとめたPDFとBESデータです。ダウンロードして勉強会などにお使いください。