記号類エトセトラ

                      2022年12月1日

点字で用いる3種類のカギを「第1カギ」「ふたえカギ」「第2カギ」と言いますが、墨字で用いられる「 」の記号は、カギカッコと呼ぶことも多いようです。
昭和21年文部省文書「区切り符号の使ひ方」では、カギとカッコの使い分けについて説明されています(この資料は『点訳のてびき第3版 指導者ハンドブック第4章編』巻末に掲載されています)が、昨今では多様な囲み記号が用いられるようになり、用法についてもシンプルな考え方で整理することは難しくなっているように思われます。
たとえば同じ亀甲カッコ〔 〕や二重山形カッコ《 》が、強調の囲み記号としても用いられる一方、前の語の説明や補足に用いられる場合もあることなどは、「てびき」p109のコラムにも取り上げられている通りで、カギ類とカッコ類の区別は曖昧になってきているのではないでしょうか。
前述の「区切り符号」の資料にも、ノノカギ(横書きで用いるコーテーションに似ていますが、縦書きで用いるもの)、ソデガッコ〔 〕(現在は亀甲カッコと呼んでいるようです)、カメノコガッコ【 】(同じく、墨付きカッコの名称が一般的でしょうか)など興味深い名称とともにいろいろな墨字記号が掲載されていますが、この頃では形態・用法ともに急増しているようです。
手元の辞書でカッコという言葉を引くと、「ある部分を囲んで他との区別を明らかにするための記号」などとあり、墨字の世界で用いられるカッコという言葉は、点字で言うところのカギ類・カッコ類を概括したものと考えた方がよいのかもしれません。
つまり墨字で現在一般的に用いるカッコという言葉と、点字記号のカッコ類とはイコールではなさそうです。
そしてカギカッコという言葉をあらためて考えてみると、カギという和語とカッコという漢語から成る語なのでした。
本来、カギ(鉤・鍵)とは、先の曲がった金具などを指す言葉です。
墨字のカギは、もともと庵点(和歌や謡曲などの右肩に添える、山形のカーブを描く記号)を変化させたものだとも言われ、その形からカギと称するようになったのでしょう。
一方、カッコ(括弧)は「弧で括る」ことを意味し、一説によれば中国語の翻訳に携わったイギリス人が数学書で用い、その言葉が明治期に日本に伝わったのだとか。
点字記号について、はじめは「ふたえカギ」と「二重カッコ」の名称がなんだかバランス悪いように感じましたが、和語同士、漢語同士の自然な結びつきだったわけです。
墨字の『 』も「区切り符号の使ひ方」では「フタヘカギ」とされていますが、現在では二重(にじゅう)カギカッコまたは二重(にじゅう)カギと呼ぶことが多いようです。
けれども「二重(にじゅう)カギ」は点字記号の名称ではありませんので、点字記号を指す場合は「ふたえカギ」と正しく呼んで、混同のないように気を付けたいものです。
墨字の二重カギも、本来はカギの中にさらにカギが必要な場合に用いるものでしたが、この頃ではいろいろな使われ方をして、点字のふたえカギに対応させられない場合があることにも注意が必要です。このことは「質問にお答えします」にも取り上げていますので、ご参照ください。
墨字記号の多様な用法に対して、カギ類・カッコ類の種類が限られる点字では、本来の用法(カギ類は会話文・引用文・強意・強調などに用い、カッコ類は主に注釈・説明などに用いる)に適った囲み記号を選択することが、正しく伝わり読みやすい点訳につながると思います。
また第1カギ・第1カッコは、開き・閉じが同じ形であることから、墨字でカギ内のカギ、カッコ内のカッコに同じ形を用いている場合にも、点字では外側と内側の形を変える配慮が必要になります。開き・閉じが錯綜して分かりにくくなったり、誤読したりすることを避けるためです。

ところで点字には、6点の組み合わせという限られた条件の中で多くの文字や記号を表現するために、様々な工夫や叡智が盛り込まれています。
同じ形でも、読点と外字符のように後ろのマスあけの有無、点訳挿入符と段落挿入符のように内側のマスあけの有無によって使い分ける記号もあります。
数字体系中では、位取り点も年号略記のアポストロフィもともに③の点ですが、数符の直後にきているかどうか、その後ろに何桁の数字が並ぶかによって判別でき、混同することはありません。
同じ点の配列が、数符の後ろ、外字符の後ろにくると数字やアルファベットに変わるのも、あたりまえのようになじんだルールですが、考えてみれば、前に来る記号によって後に続く文字の意味が変化するというのはユニークな仕組みだと感じます。
同じ点の配列でも前後の条件によって表す意味が異なるケースはいろいろありますが、「⑤⑥の点」などは、記号として、あるいは記号の一部として、大活躍する最たるものではないでしょうか。
後ろの語に影響を及ぼす記号としては、アルファベットモードに変える外字符の他、数式指示符、化学式の指示符、アドレス囲み符号内での小文字符としても働きます。
また直後に続く文字とセットで、アンドマークやナンバーマーク、パーセント記号などを構成する場合もあります。
ふたえカギ、第2カギ、二重カッコ、第3指示符、第2段落挿入符のほか、注記符や発音記号符も「⑤⑥の点」から始まります。
そして前の語に続けて書き、後ろをマスあけする「⑤⑥の点」といえば、読点。
直後に何かの点が続く場合には実に多様な可能性があることを思うと、読点の後ろにマスあけがない、というミスは罪が重い(!?)と言えるかもしれませんね。

そして、いかなる場合も、前後ともマスあけをしてぽつんと「⑤⑥の点」だけを書くことはありません。
それが「⑤⑥の点」なのか「①②の点」なのか「④⑤の点」なのか・・・は、前後に手掛かりとなる点がなければ判別が困難です。
句読符は必ず前に続けて書きますが、この頃ではいきなり疑問符だけが単独で書かれるといった表現もあり、それを原文通りに点字記号に対応させて書くと、触読上支障が生じるわけです(単独の疑問符でもカギやカッコに囲まれていれば、読み取ることができます)。
パソコン画面の仮名表示を見ながら点訳していると、いきなり単独で書いても疑問符として表示されることから、点訳者はそのことをつい忘れがちかもしれません。
触読する人の指先と頭脳では、前後の文字との相対的な位置関係を手掛かりにしながら点の位置を正確に読み取り、前後の状況によってその点が意味することを適切に判断するという、高度な読み取りが駆使されているわけです。
これから点字を学ぶ人に、記号類を一覧表で形だけ見て使うことなく、正しい用法を踏まえて用いることの大切さを伝えるとともに、私たち自身も十分気を付けたいと思います。 (K)