「お問い合わせ/質問受付」 雑感
2025年9月1日
9月というのに暑さの終わりがまだ見えません。この夏には猛暑とともに各地で豪雨にも見舞われました。各地に大きな被害をもたらしてしまい、ニュースに接するたびに心が痛みます。被害に遭われた地域の皆様には心よりお見舞い申し上げます。
そして、日本全国くまなく、暑い!夏でしたが、そのような中でも、パソコンに向かって点訳・校正に励む多くの仲間がおられることを点訳フォーラムのメンバーは日々強く感じながら過ごしています。
「お問い合わせ/質問受付」のフォームから連日届く質問は、2020年1月開始以来5年半で9000を超えました。
質問は、点訳講習会受講中の方から講習会を担当する方まで、点訳者になりたての方から長い経験をお持ちの方まで、また、一次校正、二次校正をされている方、最終的に校正のチェックをされている方まで、「点訳書製作」のあらゆる過程に渡っています。
私たちメンバーは、所属する施設・団体でも質問は受けていますが、それは言うなればツーカーの仲間、講習会の第1回目から、何をどう伝えたかを知っているなかでの質問ですので、「確認」の範囲に過ぎません。
ですから、点訳フォーラムで受ける質問は、メンバーにとって、何をどうお伝えしたらよいのかを一から学ぶ場になっています。言葉が足らず誤解を生じたり、考え方の違いから、何度かやりとりすることもありました。また、お答えに齟齬が生じて修正をする場面も何度かあり、ご迷惑をおかけした方にはお詫び申し上げます。
点訳フォーラムの特徴は疑問に思った方がその場で直接質問を寄せられるということですので、それにお答えすることは、なかなかできない経験です。常に多くの(では表現しきれないくらいの)勉強をさせていただいています。
質問内容は1行のものから、しっかりと下調べ、調査をされた上でのずっしりした内容まで、「てびき」や「語例集」をもとにすぐお答えできるものから、あちこち調査して議論してお答えを導き出さなければならないものまで含まれます。「必ず質問を受けた順番に回答を送信する」との鉄則を守っていますので、早いときには即日回答が届く場合もあると思いますが、長いときには5~6日かかる場合もあります。それでもこれまで「1週間以内にお答えします」の約束は守ることができています。
日本全国から寄せられるのに、短期間に同じ内容の質問が続くことがあります。地方も異なり、原本も異なるのに・・・と、点訳フォーラム七不思議の一つです。
さて、質問された方と数回やりとりをしましたが、お互いに十分納得したとはいえない課題が現在二つあります。私たちとしては、「一般書では全国で標準化された点字表記をめざす」という「点訳のてびき」の観点から導き出したお答えをしています。
1.ポリエチレンの考え方
「ポリ」は、化学の分野では「重合する」という意味の接頭辞ですので、本来は後ろに付く語によって切れ続きを判断しなければならないと言えます。
ですが、「ポリバケツ」「ポリ袋」「ポリ容器」など、ポリエチレンの略が2拍の外来語という感覚で用いられている側面もありますし、ポリエチレンは一語としてのまとまりが強いと感じられ、慣習的に一続きに書いてきました。
一般書の中では、「ポリエチレン■オキシド」「ポリエチレン■グリコール」と書いた方が語としてわかりやすく読みやすいと考え、語例集でもこのマスあけを示しています。
しかし、化学の専門書や化学的な構造を明らかにして書かなければならない場合は、物質の構造を調査して、後ろに続く語によって切れ続きを判断する必要が生じると思います。
ポリエチレンオキシドはエチレンオキシドのポリ(重合体)、ポリエチレングリコールはエチレングリコールのポリ(重合体)ですので、化学の専門書や構造を説明している文脈では「ポリ■エチレン■オキシド」「ポリ■エチレン■グリコール」と書く方がよいのかもしれません。
「てびき」は一般書の点訳という立場で、なじみのある読みやすい切れ続きをと考えています。
話が飛びますが、古文や漢文の書き方にしても、一般書では現代の仮名遣いにすることを推奨しています。ですが、古文を古文として鑑賞する学習書や専門書の場合は、古文の点字表記で書くことになります。
一般書と専門書と明らかに異なる場合はよいのですが、「一般書」と言っても専門的な面からの解説が含まれていたりする場合もありますので、原文によって、書き方を判断する姿勢も大切になってくると思っています。
2.北1条西2丁目
札幌や帯広などでは、南北が「条」、東西が「丁目」で表されています。その表記について、点訳フォーラムでは現在、丁目、番地などは数字の前で区切ることにしています。
北1条西2丁目 ⇒ キタ数1ジョー■ニシ■数2チョーメ
南19条西15 ⇒ ミナミ■数19ジョー■ニシ■数15
北1条東3丁目 ⇒ キタ数1ジョー■ヒガシ■数3チョーメ
としています。
これについては、以前は、住所の名称として北1条、西1丁目などが用いられていますので、キタ数1ジョー、ニシ数1チョーメと書いてよい、拍数の判断によって「北1条」「南■1条」「西3丁目」「東■3丁目」のようになると考えていました。ところが、「丁目」は日本全国で一般に用いられている住所表示で、それについては、数字の前で区切って書いています。
札幌などの条、丁目の単位の住所表示は、全体で特殊な表示と考えていましたが、「丁目」はごく一般的な表示ですので、ほかの自治体と共通した表記の方が分かりやすいと考え直しました。
「条」は京都市の住所表示にも用いられていますので、京都市、札幌市や帯広市などの「条」の数字の前は、拍数で判断します。ですが、丁目に関しては数字の前で区切るとして、全国の他の市と統一した表記にした方がよいと判断しました。
ただ、略記の仕方は、いろいろな表し方がありますので、点訳フォーラムでは
キタ数2■ヒガシ■数3、ミナミ■数13■ニシ■数2
がよいと思いますが、
条と丁目を同じ表記にして
キタ数1■ニシ数1としてもよいと思います。
住所表示は地元の方が最も頻回に用いられるので、条と丁目で書き方が異なるのは、違和感も大きいと思いますが、点字表記の全国的な標準化等の立場からは、「~丁目」は全国で同じ表記にしたいと考え、この結論に至りました。
点訳フォーラムは「点訳のてびき」の普及を目標にしています。「点訳のてびき」は一般書の点訳の全国的な標準化を目指して作られています。
その立場で、いただいた質問に対してお答えしていく姿勢をもっていたいと思っています。
このほかにも、いただく質問で気になることや迷うこと、反省することが数多くありますが、毎日一生懸命お答えに勤しんでいます。
まだまだ暑さは続くようです。熱中することがあれば暑さも忘れますので、点訳・校正に頑張りましょう。 (M)