「取扱説明書」はいつも賑やか
(2021年3月1日)
「取扱説明書はいつも賑やか」って、取扱説明書が賑やかにおしゃべりしているわけではありません。取扱説明書の校正は、対面校正。この対面校正が、とても賑やかなのです。タイトルは省略しすぎですね。
点訳依頼優先順位、堂々の第一位!
「取扱説明書」。これがないと、せっかく購入したものを、使いこなすことができないかもしれません。しかし、点訳はとても難しい。そしてその校正は、さらに難しい……けれど、なんだかちょっと楽しい。
取扱説明書の依頼は、電話かメールです。以前は墨字の取扱説明書を送ってもらっていましたが、今はほとんどの取扱説明書がWeb上にあるので、型番を聞くだけでOKということが多くなりました。ただし、絶対(!)に型番を間違わないこと。何度も確認して、品名や(あれば)通称なども確認して、特定します。Web上に取扱説明書を発見したら、もう紙媒体を送ってもらう必要はありません。ご家族等に読んでもらったりして、お手元で使っていただくことができます。このことによって、点訳する側も気分が楽になりました。紙媒体をお預かりしている間、ユーザーさんのお手元に取扱説明書がない、というのは、かなりのプレッシャーになっていましたので。
点訳については省略。対面校正のシーンです。
実物が手元にあることは、ほとんどありません。点字の説明書だけでその操作をイメージしながら、実際に操作できるかどうかを判断していきます。どうしてもその製品の操作がわからないときには、店頭で確認することも(お店の方、ごめんなさい。見るだけです)。
つい最近、珍しく実物が手元にある取扱説明書の校正となりました。が、この説明書がかなりひどい。音声機能対応なのですが。
(例 1)
触読者 「ONになったことがわからないんですけど…」
校正者 「ONになった時点での音声対応はないみたいです」
触読者 「すごい、機器ですね……」
校正者 「手をかざして5秒待って、なにも音がしなかったらOFF、ですね」
触読者 「そう書いてもらわないと、使えませんね」
(中略)
触読者 「(触読中) ソノゴ ホーチ… え? ホーチ? ほっとくの?」
校正者 「いや、ホーチ。音で知らせる」
触読者 「ソノゴ オンセイデ オシラセ としてもらえませんか?」
(例 2 洗濯機の取扱説明書 毛布のたたみ方)
原本は以下のとおり(イラスト付き)
① 2つ折りに
② 3つ折りに(幅40cmになるように)
③ 縦2つ折りに
④ M字に
完成イメージ
校正前
1 オリタタム
① フタツオリニ
② ミツオリニ(ハバ ヤク 40cm ニ ナルヨーニ)
③ タテ フタツオリニ
④ M_ジニ(カンセイ イメージワ、 ヨコカラ ミテ M_ジニ ナッテ イマス。)
校正者 「省略しちゃダメ?」
触読者 「毛布が洗濯機に入らないってことになりますけど」
ここで、タオル登場。
校正前の点字を読みながら、タオルをたたんでみる。
校正者は、黙って見ている。
校正者 「いや、それじゃ、洗濯槽に入らないでしょ」
校正後の説明
モーフノ イレカタ
1 オリタタム
① ナガイ ホーノ ヘンヲ フタツオリニ スル
② フタツオリノ ママ ミジカイ ヘンガ 3トーブンニ ナルヨーニ ジャバラニ オル(ハバ ヤク 40cm ニ ナルヨーニ)
③ ナガイ ヘンヲ フタツニ オル
④ ワッカトワ ハンタイガワヲ ソレゾレ ソトガワニ フタツオリ スル
触読者 「これで、毛布が洗濯槽に入る…… かもしれませんね」
(注:これが正解ということではありません)
などなど、時には、そのあたりにいる職員を引っ張り込んで、ああでもない、こうでもないと、とても賑やか。
取扱説明書の校正基準は、「この説明書でちゃんと使えること」…などということは、どこにも書かれていないのですが、使えないものを作っても始まらない。これからも、使える説明書を目指していきたいと思います。
そろそろ春。毎年、春になるといくつかの取扱説明書の依頼がやってきます。「春だね~。やっぱり来たね~。どうしようね~」といいながら、あれこれ手を打って、点訳していきます。取扱説明書の点訳のコツは「慣れ」と「気づき」。どれだけ多くの数をこなすか、そして実際に触読者との校正を経験して、どれだけの「気づき」があるか、だと思います。
「取扱説明書はちょっと……。できれば一般書で……。図表がないのがいいんですけれど……」などと言わずに、多くの点訳者に取扱説明書などの点訳にも、どんどん取り組んでいってほしいと思っています。とっても大変で、そして、楽しいです(笑)。 (Y)