「点字は読む人みんなのもの」 点訳フォーラム2年目のスタート
新年おめでとうございます。
昨年1月7日に誕生した点訳フォーラムは、2年目を迎えました。
毎日多くのかたにアクセスしていただき、また点字・点訳に関する質問も連日お寄せいただいています。日本には、点訳に携わるかたがこんなにも多くいて、熱心に活動されているのだということを毎日実感し、心強く思っています。また、海外で活動されているかたからも質問をいただき、インターネットならではのつながりも感じています。
私たちは、点訳の仲間が集う場所として、このフォーラムを立ち上げました。点字を触って読む人・目で読む人、ともに、点字を使用する仲間が一人でも多くなるようにと願っています。
点訳の初心者には、ベテランには当然と思われることも、マスあけや表記のもととなる理由が分からず、納得のいかないことが多いと思います。
私も遠い昔、初級点訳講習会の課題文で「校長先生」を区切ることが疑問でなりませんでした。「一人の人なのになぜ切ってしまうのか?」と思ったものでした。
また、接頭語の説明のとき「〈各・貴・前・非・・・・〉は区切り、〈新・全・総・被・・・・〉は続けます」と黒板に列挙されて、理解できずに質問したところ「点訳ではこうなのよ。理屈ではなく丸暗記してね」と言われて不承不承引き下がったこともありました。きっとそのときの講師も同じように指導を受け、覚えてきたのでしょう。しかし、そのような初心者の疑問を一緒に考えることから、自分自身も点訳のスキルを磨くことができるのだと私たちは考えています。
点字を小さいときから読み慣れているかたは、「どうして点字が触読できないのかが分からない」そうです。中途視覚障害者のための点字学習指導の講習会で、「こうやって点字触読を習得するのだと初めて分かりました。目からうろこでした」といわれるのを聞いたことがあります。
小さいときから点字で読み書きをしてきた点字のベテランは、触読のスピードも速く、少々複合語が長く続いても、促音符や疑問符が単独で書かれていても、読み進むことができます。
でも、中途で点字を覚えた人は、そこで止まってしまい、そうなると前に進むことができません。「ダメだ、読めない」と思ってしまって、そこで読むのを諦めてしまわれては、点字を読む仲間を一人失うことになります
だいぶ以前のことになりますが、当時は「漢字や仮名で書き表された単位」を一続きに書く規則になっていました。それでは読みにくいのではないか、一般書の中ではほかの普通名詞と同様に意味のまとまりごとに区切って書いた方が分かりやすいのではないかと考え、読みの速度を調査したことがあります。
「1標準大気圧」「1原子質量単位」「1メートル毎秒毎秒」「13.6グラム毎立方センチメートル」などを一続きに書いたものを含む文章を読んでもらいました。
読みの速い、読み慣れたかたは難なく読みましたが、その当時点字触読の学習中だった数名のかたは何度も読み返し、非常に時間がかかったり、「原子質量単位」の「シ」を一つ読み落とし意味が分からなくなったりという様子でした。1ページ10分以内で読めるようになっていた人が「15分以上かかった上に意味が読み取れなかった」と言われたり、「途中でつまずいて分からなくなった」と読むのを諦めてしまった人もいました。そのときの調査では、読みの速い人から、「仮名で書かれた単位を区切って書くことには抵抗があるが、これも慣れの問題なのかと思う」という意見もありました。
現在は、漢字や仮名で書かれた単位は、基本的な分かち書きの原則に従って書くことに規則が改定されています。
点字の表記規則や点字の現状について「点字を読む当事者の声が大事、当事者が声を上げなければ」ということがたびたび言われます。それは当然のことですが、その中には点字の読みに卓越したかたの声はもちろん、点字で読書をしようと頑張っている人、点字で読むのが好きになりかけている人の声も含まれなければならないと思います。
私の周囲には、50代を過ぎてから点字を習得し、5~6巻の本を1週間で読んで毎週交換に来館する人、3巻程度の本を月に2タイトル位じっくり読んで、クラブ活動の時に次の本を持って行く人、毎週1回、時間を掛けてボランティアと一緒に読書を楽しんでいる人などがいます。その人たちは、つまずいたり、意味の取れないところがあると、読めないのは自分のせいと思ってしまい、こういう書き方はしないでほしいとか、区切って書いてほしいというような声をあげることを初めから諦めてしまっています。そのような人たちのことにも配慮した点字の表記規則や点訳の工夫でありたいと思います。
点字の専門家や、点字の読みに卓越したかたは、ご自分の読みやすさは少し我慢していただいて(読めるのですから)、そのような触読の初心者のことにも思いを寄せて、点字触読の仲間を増やす配慮をしていただきたいと思います。
中高年になってから触読に挑戦される方の意気込みと努力を後押しできる点訳書を目指していきたいと点訳フォーラムでは考えています。
そして、点字を必要としている人が一人でも多く点字の読み書きができるように、また、点訳者を含め、点字・点訳に関わる仲間が増えていくことを願いつつ、これからも活動を続けていきたいと思います。
みなさんにとってよい1年でありますように。 (M)