「点字サイン」の点字表記を考える
点訳フォーラムは、今年1月のホームページ開設と同時に活動を開始してから10か月が過ぎました。徐々にですが、認知度も高まりつつあるように感じられます。地味であっても、一歩一歩着実に、点字・点訳に関わる方々に浸透していければと思っています。
さて、今回のブログでは「点字サイン」、とりわけ、その点字表記について取り上げます。
「点字サイン」をご存知でしょうか。
点字・点訳に携わる方々に、この問いは愚問だったかもしれません。
町に出てみると、券売機・エレベーター・ホームへの階段の手摺…、など点字表示がされていることに気づきます。これらはすべて「点字サイン」と呼ばれるものです。
2002年5月に発行された『視覚障害者の安全で円滑な行動を支援するための点字表示等に関するガイドライン』(日盲社協・点字出版部会、以下「ガイドライン」と略します)によると、次のように説明されています。
「点字サインは、点字等による案内板・表示板・手摺表示・操作表示等を総称する言葉」
これは、視覚的サインと同様、慣れない建物や駅構内などを単独で移動したり、機器類の操作をする際に欠かせない存在です。「階段の先はどうなっているのか知りたい」「券売機での操作をスムーズに行いたい」…など、ちょっとした確認のために情報を提供してくれる心強い支えになるものです。今や公共の建物内や鉄道駅で、点字サインを見たことがない人は少ないのではないでしょうか。
点字サインは、いわゆるハートビル法(平成6年)の施行に伴い設置が義務化されて以来急速に普及し始め、視覚障害者の自由な行動範囲の拡大に貢献してきたことは紛れもない事実です。
一方で、普及とともにいくつか問題点や課題も指摘されるようになりました。
詳細は前述の「ガイドライン」に譲りますが、中でも点字・点訳に関わるものとして看過できないのが、点字の誤表記に関する問題です。これは、設置が義務化され始めてから目立つようになりました。
「ガイドライン」では、点字サインの設置にあたって、基本原則を定めていて、その中に「点字表記が最新の点字表記法に基づいて正しく行われていること」「点字や触図に関しての専門的な知識を有する者の指導・監修を受けること」などと規定されています。この原則に反して、「ガイドライン」作成に際して実施した「点字サインに関するアンケート調査」結果から次のような問題点が明らかとなりました(詳細は「ガイドライン」付録参照)。
※調査対象は、点字使用者で一人歩きする視覚障害者(回答数209)
※以下< >は多い順
・上下逆様に張られていた(43%) <階段などの手摺、駅の券売機、
タクシー車内>
・誤字があった(36%) <駅の券売機、階段などの手摺、デパート、公共
施設の案内板>
・マスあけなど点字表記の間違いがあった(29%)
<公共施設など建物内部の見取り図、階段などの手摺、鉄道運賃表>
一見すると割合は低いように見えますが、点字は1点でも欠けると別の文字になってしまうなど、決して見逃すことのできない問題です。ましてや上下逆様などは論外と言わざるを得ません。ひどい例では、横書きの点字を縦に1字ずつ並べた案内板まであったと聞きます。
点字サインに盛り込む情報の一つに誘導情報というのがあり、更にこの中には、現在地情報と行き先情報があります。誤った点字で誤った情報を提供すると、現在地の確認ができないばかりか目的地にたどり着けないなど、深刻な影響を及ぼすことになりかねません。たとえば、4番ホームへの階段手すりの点字サインが「6番」となっていたらどうでしょう。
こうした、ずさんな誤表記の原因について、「ガイドライン」では、以前は福祉の現場に発注・製作されてきたものが、建設の現場に移り、一般の工事と同じプロセスにより製作されるようになってきたことにある、と指摘しています。点字の五十音表だけでは正しい点字を作ることはできません。分かち書きと呼ばれる規則に則って正しく書いていく必要があります。正しい情報(サイン)を提供するには、正しい点字でなくてはなりません。
誤った点字サインが作られないようにするには、製作のプロセスのどこかで、点字に関する十分な知識と技能を有した視覚障害者、または点字の専門家の目を通すことが必要です。さらに、設置後の点検もかかせません。誤表記はないか。正確な情報か。たとえば、運賃表の内容が改定前のまま放置されていたという例もあったそうです。そして、何よりも点字に対する正しい理解の普及に努めていくことが、長期的には誤表記のない点字サインの製作につながるものと思っています。
真に「役に立つ点字サイン」であるために、点字・点訳に関わる一人として、このブログをお読みくださった方々と、改めてこの問題を共有したいという思いで取り上げました。
皆さんも町に出かけたとき、ときどき「点字サイン」に目を向けていただければと思います。(I.)
【点訳フォーラムからのお知らせ】
■1.「菊花」の点字表記について
「菊花」の点字表記については、ご質問も多く、点訳フォーラムとしてすべて「キクカ」と書くとお答えしてきました。しかし、中央競馬会の重賞レースである「菊花賞」と勲章の「菊花大綬章」は、固有名詞との関係でご異論もありましたので、中央競馬会、内閣府に文書で問い合わせ、文書で正式な回答をいただきました。
その結果、点字ではすべて「キクカ」と書いてよいことを確認しました。点訳フォーラムとしては、これで、「菊花」の点字表記についての議論に終止符を打ちたいと思います。詳しくは、「点訳に関する質問にお答えします」の「第2章 仮名遣い」の項目をご覧ください。
■2.点訳フォーラムを、読み上げソフトで利用する際の注意点について
点訳フォーラムは、読み上げソフト「PC-Talker」で問題なく利用できますが、ブラウザによっては注意点があります。以下「③Edge」については、これを用いた読み上げ等に関して質問があったものです。
<PC-Talkerで利用できるブラウザと注意点>
①NetReader(視覚障害者専用音声ブラウザ)
②IE + PC-Talker
③Edge + PC-Talker
●注意点
Edge は、必ず最新版をお使いください。古いバージョンでは、検索語入力画面で日本語入力時の読み上げがないなど読み上げが不十分だったり、キーボードによる操作ができないなどの問題がありました。最新版にすることで、IE と同等の読み上げと操作が可能となります。最新版にするにはWindowsアップデートを実行します。これにより、Edge も最新になります。
ただし、自動アップデートに設定している方も多いかと思いますが、すべてこれで最新になるわけではありませんので注意が必要です。ときどき手動で確認することをお勧めします。また、PC-Talker も最新版をお使いください。
④Chrome + PC-Talker
●注意点
PC-Talker のブラウザ設定で「ダイレクト操作キー」に設定している場合、検索条件指定画面(コンボボックスと読み上げる)で、条件選択に使用する[Ctrl]+[↑][↓]が機能しません。この場合は、[Esc]+[↑][↓]で代用してください。なお、この操作は「Edge」にも共通です。