「点訳図書製作基準」について

                   2024年5月1日

 ほとんどの点訳ボランティア、ほとんどの情報提供施設では、「点訳のてびき」を用いて点訳、または点字図書の製作が行われているものと思います。「サピエ」に登録する点字図書の場合は、さらに『「サピエ図書館」登録点字文書製作基準』に基づきデータアップがなされています。
しかし、実際の点訳の場面では、たとえば「てびき」第5章その6「本文以外の割り付け」など体裁に関する部分では、書き方に幅があって判断に迷う場合も多いのではないでしょうか。一例を挙げると、奥付では、書名など記載が必須(省略してはならない)の事項のほか、何を選択し記載するか、あるいはしないか、……などなど。そこで、施設によっては、「てびき」を補う資料として、いわゆる「製作基準」と呼ばれるような独自の基準を設けているところもあると思います。
私が勤務していた施設でも独自の基準「点訳図書製作基準」を設けています。今回はこれを取り上げることにしたいと思います。基本的には「本文以外の割り付け」を中心に一部見出しに関する事項なども含め、「てびき」と合わせてボランティアの皆さんに使っていただいています。施設として決められるところはできるだけ明確にすることを目指して作成しました。最初に作成したのが1989年。『点訳のてびき 入門編』の時代です。それ以降、「てびき」の改訂、ボランティアからの要望や意見などを受け、適宜改訂を重ね、最新版は2019年12月に『点訳のてびき 第4版』の発行を受け改訂したものです。

最初の「製作基準」作成のきっかけとなった一つに、分冊時における見出しの扱いの問題がありました。これは、ボランティアからの問い合わせが非常に多かったことによります。数種類のレベルの見出しがあったとき、分冊時、次巻本文最初にはどのレベルの見出しから書くべきか。また、点訳挿入符による「続き」はどのレベルの見出しに付けたらいいか。見出しの途中で分冊する場合、原本の1行あけ(場面転換など意味のある行あけ)で分冊していいか。参考となる材料をできるだけ多く集め、時間をかけて話し合いを重ねた結果、小見出しで分冊した場合はそれより上のレベルの見出しは再掲せず、「続き」の表示は見出しの途中で分冊した場合のみ付けることにしました。分冊位置については、1行あけで分冊すると、行あけがあることが読み手に伝わらない、という判断からあえて1行あけの箇所では分冊しないことに決めました。これには方々から批判もありました。現在は見直しをし削除しています。
参考までに初版の「製作基準」の見出し項目を記載しておきたいと思います。
A.表紙
B.表紙裏
C.奥付
D.目次
E.まえがき、あとがき、凡例、索引等
F.記載位置とページ立て
G.巻数のまとめ方と変わり目について

面白いのは「B.表紙裏」でしょうか。叢書名があった場合にその下部に記載するようにしていました。これは出版されている点字図書の書き方を参考にこのようにした記憶があります。
また、点訳図書凡例の内容について、以下のように具体的に示しています。「入門編」では今と違って凡例の内容まで言及されていなかったと記憶しています。
(ア)図表等の処理に関する事項
(イ)イラスト・写真等の処理に関する事項
(ウ)索引がある場合、その掲載方法に関する事項
(エ)欄外見出しを使用した場合の処理に関する事項
(オ)その他、数の略記ややむを得ず小文字符を用いた場合等

その後、必要に応じて修正したり、新たな項目を追加するなど、原本の多様化に少しでも対応できるよう、また、少しでも迷うことなく点訳ができるようアップデートを続けています。
その中から、主なものを紹介します。(1)と(2)は特に力を入れていた項目です。
(1) 写真やイラストの掲載に関する事項
特に写真は、本の内容を理解する上で必要な情報と考え、ずいぶん以前から省略せず掲載するよう周知してきました。最新の「製作基準」では三つの観点から説明をしています。
①掲載の基準:タイトルや説明文の有無。ない場合でも本文を読み進む上で必要な場合は省略しない。
②挿入箇所:本文中の段落の切れ目、見出しの直後、見出しの変わり目。前2者は全マス実線枠を使用。
以前は、見出しの変わり目に一括して掲載していましたが、現在は上のように変更しています。
③説明の形式:タイトル・説明文がある場合、タイトルはあるが説明文がない場合、タイトル・説明文ともにない場合、点訳者による説明の入れ方……。
説明の形式については、参考となる例が少なかったので、『音訳マニュアル 音訳・調査編』『音訳マニュアル 処理事例集』を参考にしました。
なお、併せて、巻頭写真の入れ方についても詳しく載せています。
(2) 新書版・文庫版のシリーズ名を掲載
できるだけ原本と同じ情報を読み手に伝えるべきとの観点から、こちらも以前より「製作基準」の中で取り上げてきました。たとえば、対象(岩波ジュニア新書)やジャンル(ハヤカワ時代ミステリ文庫)などがわかる場合もあるので必要な情報と考えています。
それでも、当初は省略してよいシリーズ名と省略してはならないシリーズ名の用例を分けて掲載していましたが、わかりにくいという指摘を受け、現在はすべて掲載するように変更しました。
(3) そのほか、「製作基準」の中で決めている事項を、ほんの一部ですが記載しておきます。
・見出しの大きさが1種類のときは7マス目から見出しを書く。
・副見出しは棒線でつなぐ。
・まえがき・あとがき・解説・著者紹介などの見出しの書き出し位置は、
本文中で最も大きな見出しの書き出し位置に合わせる。
・見出しのある挿入文は最初と最後のマスが「レ」下がりの枠線で囲んで
書く。
・標題紙では、「てびき」の例1を基本に、著者表示と書名を囲む枠との
間は行あけしないが、巻数表示との間は1行あける。
・目次では、目次に記載する見出しにはすべてページを付ける。
・次のような事項も省略せず、最終巻の著者紹介の前にまとめて入れる。
a)この作品はフィクションであり、実在する人物、団体、事件などには
一切関係がありません。(編集部)
b)この作品は、2005年4月から2006年3月に渡って雑誌『小学4年生』
に連載されたものに、書き下ろしを加えた、文庫オリジナル作品です。
・奥付では、必須事項以外に、出版社の電話・ホームページ/メールアド
レス、ISBN、定価を記載。書名などの各項目には第1小見出し符使用。
電話やISBNが行末に入りきらないときは第1つなぎ符の後ろから行移し
する。

以上はあくまでも私の施設で決めているものです。
「てびき」に加え、これを補うような資料などを既にお持ちの施設がありましたらフルに活用いただき、さらに読みやすい点字図書づくりにつながることを願っています。
また、これから新たに「製作基準」などをご検討されている施設がありましたら、多少なりともそのヒントになれば幸いです。 (I)