「製作基準」について

 「点訳フォーラム」を立ち上げて2か月が過ぎました。毎日、新型コロナウィルスのニュースでもちきりですが、一日も早い終息を願うばかりです。
 このたび「点訳に関する資料集」に新たな資料を追加しました。「点訳に関する質問にお答えします(点訳Q&A)」に現在掲載しているすべての内容をまとめたものです。PDFとBESで、それぞれ第1章から順にまとめてありますので、勉強会などの資料としてお使いください。
 このサイトを利用なさる方は、点訳ボランティアの方々と、点訳に関わる視覚障害者情報提供施設の職員の方々だと思います。そして、多くの方々は「サピエ図書館」へ登録する点字図書・資料の製作に関わっていらっしゃると思います。
 点訳フォーラムは、点字図書・資料の標準化を目指しています。それは、共通語に近いものと言えます。共通語を代表するのはアナウンサーの言葉で、共通語で話せば、ほとんどの日本人が理解することができます。それぞれの人が使う言葉は自由ですし、方言や独特の話し方はその人の個性を表します。点訳者が個人的に書く手紙の表記や、点字使用者が日常書く点字表記にまで、共通語を強いることはありませんが、情報提供のための点訳は、全国の点訳者が共通の規則でできるだけ同質の点字図書・資料を作ることを目指します。それによって、サピエ図書館には全国でたった1冊の点字図書・資料が数多く累積されてきました。重複製作を回避するのも、その共通認識があるからです。

 「サピエ図書館」に登録する点字データ製作に当たって守るべきものとして、サピエを運営する全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)は三つの資料を提示しています。
  1.点訳のてびき (「てびき」)
  2.点訳資料校正基準 (「校正基準」)
  3.「サピエ図書館」登録点字文書製作基準 (「製作基準」)

 このうち、3.の「製作基準」の変更案が3月に全視情協から示され、期限を切って意見を求められています。
 この「製作基準」変更案の「はじめに」に、以下の文があります。

 点字表記については『点訳のてびき 第4版』及び『日本点字表記法 2018年版』に準拠します。

 私たちは、古くは「てんやく広場」の時代から、常に「点字の質の向上」と「標準化」を求めてきました。「標準化」とは、どこが作っても同じような点字図書・資料となるようにしようというものです。点字表記に関しては、「点訳のてびき」に準拠するという方針でこれまで進めてきました。ところが、今回の変更案では、「てびき及び表記法に準拠する」とあるのです。その理由として「厚生労働省委託図書等に対応するため」と書かれています。「厚生労働省委託図書」は、ごく少数の点字出版所が国の委託を受けて点字図書を製作し、全国の視覚障害者情報提供施設に配布すると同時に、サピエにデータをアップしているものであり、サピエに登録されている点字データのほんの一部にすぎません。しかし、「製作基準」が決まれば、基準に明記していないこの変更理由はどこかに消えてしまい、サピエに登録する点字データは「てびき」か「表記法」のどちらかによっていればよい、ということになり、結果的に表記の揺れが増幅することになります。これによって点訳の現場で大きな混乱が起こることは目に見えています。
 「表記法」は点字のルールの基本を緩やかに示したものです。いろいろな立場の人がいることを考慮し、いわば方言も共通語も認めようという立場で作られていますので、点字表記の判断に揺れが生じてきます。また、墨字の原本を点訳するという立場だけで書かれたものではありませんので、点訳に際しての判断がわかれる場面も出てきます。さらに、これまで点訳者は「てびき」が「表記法」を基にしていることを理解したうえで、点訳者向けに再構築された「てびき」で講習を受け、「てびき」によって点訳してきました。これに「表記法」のルールを学ぶことも加えることは点訳者にも大きな負担となります。さらに、点字表記の揺れ(ばらつき)は、最終的にユーザーの方々が困ることになると思います。サピエのデータは、どの施設・団体が点訳しても同質の、安心して読めるデータであるという前提が壊れてしまいます。

 繰り返しますが、「てびき」は、「表記法」を基に、点訳の立場で規則を再構築して作られたものですので、「サピエ図書館」に登録する点字図書・資料製作に当たっては「てびきに準拠する」だけで十分です。
 今、関係者が声を上げて反対しないと、情報提供施設・団体で点訳に関わる私たちにとって将来に大きな禍根を残すことになると、大変心配しています。(F)