お点ちゃんに感謝をこめて
2025年3月1日
2024年8月、点字変換「点訳ちゃん」が公開されました。
これまで長い間「お点ちゃん」を使ってきました。点字変換云々については、後に回して、まずは「お点ちゃん」に心からの感謝を伝えたいです。
当初フリーソフトでありながら、その変換精度は素晴らしいものでした。初めて使ったときには、ほんとに驚きました。そしてテキストデータを修正してから、点字変換して……と、試行錯誤を重ねていくうちに、もう手放せないソフトになりました。業務上も、通常の点字製作も、「お点ちゃん」のおかげで一歩も、二歩も先に進めていくことができたと思います。
ほんとうに感謝、感謝です。
それでも、後ろ盾のないソフトであるがゆえの不安もありました。
ひとつはOSへの対応でした。Windows11になって、インストールできない!というPCが出てきました。全部ではなく、インストールできるPCと、できないPCがありました。
そうこうするうちに、勝沼さんのホームページが閉鎖され、Web上から消えてしまいました。
「お点ちゃん」は消えてはいけないソフト。手元にあるインストールプログラムを、大切に保存して使い続けるしかない状況でした。いつまで使えるのか…、という不安を抱えたまま使っていました。
そして「点訳ちゃん」が公開され、以下の案内が出ました。
(テクノツールの案内より転載)
本ソフトウェアは、パソコン自動点訳ソフト「お点ちゃん」をベースに開発しており、「お点ちゃん」の開発者である勝沼貞幸氏の全面的なご協力のもと開発を進めて参りました。これまで「お点ちゃん」をご利用いただいていた点訳者の方は、同じような操作感でご利用いただくことができます。
(転載、ここまでです)
「お点ちゃん」は「点訳ちゃん」に引き継がれました。
こんなに嬉しいことはありません。
優れた元フリーソフトが、消えてしまうことなく引き継がれていく。それも、同じ「点訳」という世界の業者に引き継がれていく。そしてまた、そこから発展していく。
(テクノツールの案内より転載)
次期バージョンの「点字編集システム8(仮称)」は、来年の春以降に販売開始を予定しています。この次期バージョンでは「自動点訳システム 点訳ちゃん」との「セットパッケージ」をご用意する予定です。「点字編集システム」と「自動点訳システム 点訳ちゃん」とを連携させて統合的に点訳作業を行うことができるようになります。
(転載、ここまでです)
どういう連携作業ができるのか、とても楽しみです。
「自動点訳」と言っても、「完全自動」ではありません。あくまでも点訳の補助。ただの点字変換であって、100%の点字変換は不可能です。変換後、必ず「点字表記」の知識でもって、校正が必要です。
<ChatGPT(生成AI)も以下のように説明しています>
日本語の点訳をAIが適切に行うためには、以下のような困難な課題があります。
・日本語の複雑な文法構造と助詞の扱い
・同音異義語の多さと文脈把握の重要性
・固有名詞や新語への対応
・点字表記ルールの複雑さと例外の多さ
これらの課題を解決するには、高度な自然言語処理と点字知識が不可欠です。また、人間の点訳者が持つ深い専門性と経験に基づく判断力を人工知能がどこまで獲得できるかも課題となります。
(ここまで)
上記は2024年9月頃の回答なので、今はもっと変わっていると思いますが、点訳の難しいところをうまく表現してくれているなぁって思います。
点訳はそれだけ高度なスキルを必要とするものである、ということ。
点字変換は一助であって、そこに「点字表記」の知識での修正が必要になるということ。
ここからは、点字変換するまでのことを少し書きます。
点字変換ソフトがあれば、それでOKということではありません。
点字変換をするには、テキストデータが必要です。
テキストデータを作るためには、PDFファイル等が必要です。
ということで、まずPDFファイルをつくります。
方法は、Web上からダウンロードする、というのがひとつ。取扱説明書とか、観光案内などはWeb上からダウンロードできるものがあります。
もうひとつは(おそらくこちらがほとんどだと思いますが)、墨字原本からPDFファイルをつくるという方法。「自炊」ですね。初めて「自炊」という語を聞いたときには、一人暮らしの料理のこと?? と、はてなマークいっぱいでした(笑)。
「自炊」という語が出てきたのは、2001年から2002年にかけて2chで生まれた言葉らしいです。もともとはネットスラング。初代ScanSnapが発売されたのが2001年で、このころから「自炊」という語が使われ始めたそうです。
今では、小型の国語辞典でも「【自炊】 2.手持ちの書籍や雑誌をスキャナで取り込み、電子書籍にすること。」というふうに掲載されるような語になりました。
ちなみに、【自炊】 1.は、もちろん「自分で自分の食事を作ること」です。
「自炊」にはいろいろな方法があるかと思います。原本を裁断して、スキャンして、PDFにするというのが大筋の流れです。先に書いたScanSnapなどが代表的な機器になると思います。
【参考】
著作権法は、著作物を個人的にまたは家庭内など限られた範囲内で使用することを目的として、使用者が複製する行為を私的複製として、複製権の例外としています。書籍を買った人が、自分で利用するために書籍をバラバラにしてスキャンし電子ファイル化するのであれば、著作権法の私的複製に該当します(著作権法30条1項)。
(【参考】ここまで)
PDFファイルができたら、そこからテキストデータを作ります。
これもいくつか方法があります。
スキャナーに付属しているアプリでWordにする方法(Wordからテキストデータへの変換はWordの中で)。
Googleドキュメントを使ってテキストデータにする方法。
などなど。
そうしてできてきたテキストデータは、原本からのスキャンだったら、おそらくボロボロです。化け文字がたくさんあったり、意味不明な文字になっていたり。
そのまま点字変換すると、点訳の修正が大変なことになります。
なので、次の作業はテキストデータをきれいにすること。
いくつかポイントがありますが、テキストデータをきれいに編集してあげると、点字変換したあとの点字データもかなりきれいなデータになります。
(そして、そのテキストデータも使い道がある! という一石二鳥なのです)
あとは、テキストデータを点字変換して、変換された点字データをきれいにして、校正して……といういつもの流れです。
ここまで書くと、「最初から点訳した方が早いんじゃない?」って言われそうですが、いえいえ、意外とそういうことはありません。
もちろん得手不得手はありますが、メールを書いたり、Wordなどで文章を書いたりしている方であれば、テキストデータからの点字変換の方が、ずっと早いです。
そして、テキストデータと点字という異なる媒体で確認することで、間違いが見つけやすい、というメリットもあります。
逆に、点訳からだったらありえない間違いをしてしまうことも・・・。
「お点ちゃん」を使っていたころは以下のことに気を付けるようにしていました。
● 「 」(カギ括弧)のあと、必ず二マスあけしてしまう。
● ○○家 のとき、 ○○_ケ と第1つなぎ符を入れてしまう。
● 〔 〕(亀甲括弧)や[ ](角括弧)を第2カッコにしてしまう。
● ※(米印)を文中注記符にしてしまう。
●「私」の読みが全部「わたくし」になってしまう。
これらのことは「点訳ちゃん」ではいくつか改善されています。
また、小文字の「つ」が大きいままになっていて「もっと」が「もつと」というテキストデータになってしまっていると、点字も「もつと」となってしまいます。これは点字を確認するときに、修正されなければいけないのですが、うっかり修正漏れしてしまうことも。点字変換でなければ、「もつと」なんて点訳はしないのに……という事例です。
ほかにもいろいろありますが、「点字変換」は完全ではない! ということをしっかり認識して、必ず点字表記でもって修正すること。自己校正のような感じです。点字変換ならではの間違いにも気を付けて自己校正することが、とても大切になってきます。
長く長く愛用してきた「お点ちゃん」に、あらためて心からの感謝を伝えて、そしてこれからも点字変換をうまく使って、より早く点訳できるように、そしてテキストデータまで作ってしまって、ユーザーさんの様々なニーズにもっと対応できるように、そういう製作を心がけていきたいと思っています。
そして、「点訳ちゃん」は点字変換にとどまらず、視覚障害の方が原本と見比べながら校正ができることを目指して開発されてきたアプリです。視覚障害を知らないままでは点訳も校正もできない、ということを最近いろいろ痛感しています。視覚障害の方の校正がどれだけ有効なものかも痛感しています。見えている点訳者の点訳者のための点訳にならないように、「お点ちゃん」から「点訳ちゃん」への思いをしっかり受け止めて、続けられる限り点訳を続けていきたいなと思う日々です。 (Y)