この1年の「お問い合わせ/質問受付」について(まとめ)

この1年で、延べ約700名のかたから、800を超える質問をいただきました。
質問は「てびき」第1章から第5章までの殆どすべての項目にわたり、「てびき」には掲載されていない点字に関する質問、「点字編集システム」に関する質問などもありました。
質問が寄せられると、担当者間で回答案を検討します。短い質問や回答に迷わないと思われる質問も、必ず担当者全員が同意したところで、回答をお送りしますので、返信メールが届くまで1~2日はお待ちいただくことになります。また、問題点があると数回メールでのやりとりを行いますので、3日程度かかってしまう場合もありますのでご了承ください。
今までに4通、お答えは準備してあるのに、質問者まで届かなかった質問があります。まだ届いていない方は、改めてお問い合わせください。「Mail Delivery System」のメールが届くと、担当者が推測できる修正をして再発送を試みます。不要なピリオドが入っていたり、アットマーク以降のスペルが間違っている場合もあります。中には6度目で届いた方もありました。

さて、質問が最も多いのは3章で全体の43%、次が4章で22%、2章と5章が14%ずつ、1章が4%、その他が3%でした。
3章では複合名詞、特に「てびき」p69【備考】、p70(2)についてが38%と多かったことは皆さんのご想像の通りと思います。
4章では「カギ類」「カッコ類」についてが最も多く、4章に関する質問の30%になりました。次いで多かったのが記号間の優先順位、囲みの記号が続く場合についての質問で、これらについてはもう一度「てびき」の読みなおし確認をお願いしたいと思います。
2章では、数字か仮名か、外字符か外国語引用符かに質問が集中しました。また、「き・く・つ」で促音を使用するかどうか、「ゼロ」を数字で書くか仮名で書くかの質問が多くありました。
5章ではルビやマークについて、マルCマークやマルRマークの書き方、仕切りのための線の使用について、手紙等の月日、署名などの書き方、本文以外のレイアウトについての質問が多くありました。
これら質問の多い項目については、「点訳に関する質問にお答えします」にも数多く掲載していますので、ごらんください。また、2章については語例集に質問を受けた語例を追加していますので参考になさってください。

質問の中から、今回は、漢字の読みについて考えてみたいと思います。
点訳をする際に、漢字をどう読むかは、下読みの段階でまず直面する基本的な問題です。難読漢字の調査も重要ですが、ごく平易な漢字でもどの読みを採用するか、校正に際して、点訳者の読みのままでよいのか、または、そんなに悩まなくてもよいのかさえ迷います。
「毎年、翌年」を「まいとし、まいねん」「よくとし、よくねん」のどちらで読めばよいのか、二つの語の読みを「まいねん、よくねん」「まいとし よくとし」のように統一しなければならないのかとの質問がありました。
これらの語は、一つのタイトルの中で、文脈上同一の意味の場合は、その1語の読みは統一されているのが望ましいと思います。ただ、「マイネン」と「ヨクトシ」のように読まれていても、そこまで厳密に統一することに気を配らなくても構わないのではないでしょうか。「年」が付く言葉はほかにもたくさんありますので、文脈上不自然で無ければよいと思います。
暦の六曜のうちの「赤口」については、「しゃっく・しゃっこう」どちらで読めばよいのか、一方だけを点訳しても点字では問題ないのか、それとも色々な読み方があることを点訳挿入符で併記した方がいいのかという質問がありました。
「赤口」は、「しゃっこう」「しゃっく」どちらの読みも同じくらい用いられているようです。神宮館などの暦の本にも、二つの読みが並べられていますし、国語辞典を見ても、「しゃっこう」に語義が掲載されている辞典と、「しゃっく」に語義が掲載されている辞典に分かれていて、どちらとも判断できません。このような語は、その原本タイトルの中で読みが統一されていればよいと思います。
文脈上、特に必要な場合を除いて点訳挿入符で残りの読みを併記したりする必要はありません。
「明日」(あした・あす・みょうにち)「翌年」(よくとし・よくねん)など日本語には複数の読み方があり、どちらの読みも同じように用いられている語が数多くあります。それらの語を墨字でも適宜読み分けて使用していますので、点訳に際しては、その原本の中で不統一にならないように注意すればよいと思います。
そうではなくて、どちらかの読みを採用しなければならない場合などについては、「てびき」p14「3.調査」や点訳フォーラムの「点訳に関する質問にお答えします」の第1章を参考にしてください。
基本的には、
①いくつかの国語辞典を引いて判断すること
②原則として、空見出しの読みではなく、語義が書いてある方の読みを選ぶこと
③文脈にあった読みをすること
などの姿勢が大切になります。

そのほか、「酒類」について以下の質問がありました。
「酒店・酒類」について、酒店・酒類は正式にはシュテン・シュルイと読むと思いますが、サケテン・サケルイと読んでもよいでしょうか。辞書の見出し語にはありませんが、「種類」と混同してしまいそうですし、サケテン・サケルイの方がわかりやすい気がします。点訳では辞書にない読み方をしてはいけないのでしょうか。
【A】「酒店」(さけてん)は国語辞典の見出し語としてありますので、「さけてん」と読んで構いません。そのほか「さかだな」「さかみせ」「しゅてん」の読み方もあります。「酒類」は、酒税法などとの関係で、正式には、「しゅるい」と読みますが、辞書の中には、語義説明の中に「さけるい」と読みが記してあるものもあります。
「おじは、酒類を扱うお店を営んでいた」のような場合は、「さけるい」と読んでもよいと思います。
ただし、「醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類、酒類卸業 酒類販売免許」などは「しゅるい」と読みます。
辞書にない読み方はしてはいけないということはありませんし、辞書にすべての語の読み方が書いてあるわけでもありません。
ただ、見出し語として載っている読み方に限定される場合もありますし、点訳者はわかりやすさに配慮して書いたつもりでも、文の流れや文の雰囲気を損なう場合もありますので、十分注意して、何人かで相談して決定する姿勢が大切だと思います。

よく話題になる「存」についても「ソン」か「ゾン」かで質問がありました。
以下、「点訳に関する質問にお答えします」に転載しなかったそのほかの質問についても、質問と回答を列記します。なお、質問の文については、内容は変えずに、少し短くしたり、表現を変えている場合もあります。

1.当会では「依存」を「いそん」と読んでいますが、「依存症」は「いぞん」が多いようです。現在「依存」を点訳されているのは「いそん・いぞん」のどちらが多いでしょうか?
【A】 国語辞典によると、「いそん」となりますので、「イソン」と書くことをお勧めしています。「症」がついて「依存症」となっても「イソンショー」と読みます。具体的に調査したことはありませんので、どちらが多いかを申し上げることはできません。

2.「共存」の語句の読み方について、「きょうそん」の見出しに〔「きょうぞん」とも〕と書いてある辞書が2~3あります。「きょうぞん」と読み聞きすることが多いので、ネットで調査すると、NHK「放送現場の疑問・視聴者の疑問」に以下のように理由を含めて記載がありました。
読みを変更した語
①~ゾン②~ソン(①が放送で優先させる読み)・・・依存、共存、現存、残存、併存
◯~ソン◯~ゾン(どちらの読みも同等に認める)・・・既存
点訳では、辞書に〔「きょうぞん」とも〕とあった場合でも正式の読みで処理したほうが良いのでしょうか。
【A】「てびき」では、語義の書いてある方の読みを採ることをお勧めしています。「~そん」か「~ぞん」かについては、基本的な国語辞典では、ほとんど「読み」が一致しているようです。 〔「きょうぞん」とも〕の方ではなく、辞書の見出し語に意味が書いてある方の読みを採用することをお勧めします。

3.「施工」の読みなのですが、「しこう」と「せこう」ではどちらが点訳として正しいのでしょうか。読み方としては「しこう」が正しいようなのですが、発音や放送業界・建築での読みだと「せこう」と読む場合があるようで悩んでいます。
【A】政策や行事などを実施することを「施行」(しこう)と、工事を行うことを「施工」(せこう)と読んで区別することが多いと思いますし、国語辞典などでもそのように書かれている辞典が多いようです。空見出し(「てびき」p14参照)になっている場合もありますので、辞典を引くときにも注意してみてください。
「岩波国語辞典」の例ですが、「せこう」を引くと、「施工」には、語義が説明してありますが、「施行」は「⇒ しこう」になっています。「しこう」を引くと「施行」には語義が説明してありますが、「施工」は「⇒ せこう」となっています。

4.「末」は「まつ」か「すえ」か
①入院中の大学教授が復帰するまで19世紀末のヨーロッパ文化について講義する
②19世紀末のワグネリズムが一つの巨大な幻影装置とでも言うべきものだったとしたら
③ジャズはアメリカ南部でニューオリンズを中心に19世紀末かそこらに生まれた
特に「せいきまつ」と読む時はどのように判断すればいいですか
【A】「世紀末」は「せいきまつ」と読み、単なるその世紀の終わり頃という意味だけではなく、それ以上の没落した状態を指すことが多いと思いますが、前に数字が付いた場合は、「19セイキマツ」でも「19セイキ■スエ」でも、どちらの言い方もあります。「スエ」の方が期間が長く、「マツ」は、本当にその世紀の終わり頃というニュアンスになると思いますが、厳密な使い分けはできないと思いますので、切れ続きが間違っていなければどちらでもよい場合が多いと思います。
「ハンドブック第3章編」p10のコラムに「スエ」と「マツ」のニュアンスの違いについて紹介してありますので、参考になさってください。
挙げられた用例もどちらでも間違いとはいえないと思いますが、ジャズの発祥は19世紀末から20世紀初頭らしいので、三番目は「マツ」、
最初の文は、19世紀末のヨーロッパ文化と言っていますので、世紀末の様相を呈していたように思われます。「マツ」がいいのかもしれません。
二番目の文については、「ワグネリズム」が政治や音楽の多方面にみられるようなので、どちらを指しているのか分かりませんでした。

5.「夜」の読み方について。
「ある夜」「その夜」の夜は「ヨ」と読むと言われました。「ヨル」と読むのは間違いなのでしょうか。自分で点訳する際は「ヨ」としますが、校正する時、「ヨル」となっているのを校正してよいのか悩んでいます。また「あの夜」は「ヨル」でよいのでしょうか。
【A】「夜」は、「国語辞典」を引いても、同じ意味が書いてありますので、現在は、「よる」「よ」のどちらで読んでも間違いとはいえないと思います。
ただ、「日本国語大辞典」によると
①「よ」が複合語を作るのに対し、「よる」は複合語を作らない。(並立的な「よるひる」は例外)
②(上代の用い方の説明なので省略)
③元来「よる」は、「ひる」に対して暗い時間帯全体をさすが、「よ」はその特定の一部分だけを取り出していう。従って、古くは連体修飾語が付くのは「よ」であり、「よる」には付かなかったとする考えが出されている。
とあります。
以上のことからすると、連体詞「ある」「その」「あの」などの後ろは、「よ」と読むのが自然ということになります。
なお、「どの」の場合は、「よる」と読んだ方が自然かもしれません。
できれば、文脈にあった自然な読み方を選択した方がよいと思いますので、校正で指摘するかどうかについて、団体内で研修の機会などに話し合ってはいかがでしょうか。

6.「他」の読み方でいつも悩みます。点訳する上で「た」と読むか、「ほか」と読むか、何か決定的な決まりはありますか。
【A】決定的な決まりといえるものはないと思います。文脈や後ろに続く「てにをは」や前後の言葉遣いで自然かどうかを判断することになります。
ただ、「タ」では点字では意味が取りにくいのではないかと心配される方もいますが、以下のような理由から、「タ」と読む方が自然な場合が多いと思われます。
①現在では「他」は音読みが「タ」、訓読みが「ほか」となっていますが、常用漢字表が改定されるまでは、「他」の読みは「タ」だけで、「ほか」は仮名で書くか、「外」の漢字を当てていました。戦後、長くこの状態が続いていたので、現在でもこのような文字遣いになっている読み物が多いと思います。
②「そのた」には、「その他」の漢字だけが当てられます。「そのほか」は仮名か、「その外」となります。
特徴的な使われ方としては
「ほか」 ほかでもない、~ほかない(驚くほかない)、ほかに~ない
~のほか(思いのほか、思案のほか、このほか)
~ほか何名
「た」 たを~(他を圧する、他を顧みない、他を犠牲にする・・・)
たに~(他に先駆ける、他に抜きんでる)
たと~(他と区別する、他と異なる)
たの~(他の追随を許さない、他の業者の手に渡る)
などがあります。
このように、「他」は、まず「た」と読み、文脈上「ほか」と読んだ方がふさわしい場合に「ほか」と読むようにするのがよいと思います。

同じように常用漢字表の改訂により、読みが加わった「私」については、「点訳に関する質問にお答えします」の第1章をお読みください。
また「おやこ」「きょうだい」の読みも悩ましい問題です。「兄姉」「姉弟」「父娘」などの読みについても、「点訳に関する質問にお答えします」の第1章をお読みください。
「きょうだい」についての回答には、関連質問がありました。
(1)兄姉をケイシ(アニ■アネ)とする場合、点訳挿入符を使用しなくてよいのでしょうか?
【A】漢字の読み替えであって、点訳に際して改めて付けた説明などではありませんので、点訳挿入符を用いなくてもよいと思います。読み替えも点訳に際して行ったことと考えて、点訳挿入符を用いても間違いではありませんが、読みやすい第1カッコをお勧めします。
(2)原本に「妹弟」の語句がありましたが、辞書に読み方は見つかりませんでした。
『ある場面で、妹や弟が他者になる。兄姉は、妹弟をこんなに見てあげているのになぜ? となる。兄姉の中で猛然とした怒りにつながる。』上記のような場合、どうしたらよいでしょうか?
【A】ご質問の文の場合、「きょうだい」という意味合いではなく、《「あにやあね」の立場の人は、「いもうとやおとうと」の立場の人を~》という意味合いで使われていると思います。前に「妹や弟が」ともありますので、
ここでは、アニ■アネワ、■イモート■オトートヲ~ とするのがよいと思います。

調べても、読み方が分からないという質問もありました。
7.北朝鮮関連のニュースで「対北融和」という言葉が出て来ました。「対北」は「たいほく」と読むらしいですが、「対米」のように聞き慣れた言葉ではないように思います。そこで読まれる方に親切かと思い「タイ■キタ」と点訳しましたが、いかがでしょうか?
【A】「タイ■キタ■ユーワ」でよいと思います。
「対北」の読みが分からずに調査に時間がかかってしまいましたが、外務省では「対北朝鮮」という言い方をして、「対北」という用語は正式には用いていません。
ですので、外務省の公用文やホームページで「対北」は、今まで載っていないそうです。ただ「対北」は、「対北朝鮮」を表しているので、「たいきた」と読むのがふさわしいとのことです。
ですから「タイ■キタ■ユーワ」と書いてよいと思います。
なお、このことは、外務省の担当課に確認しております。

8.点訳上では、促音符を用いない語に、促音のルビがあった場合
激昂に、げっこうのルビ
活火山に、かっかざんのルビ
腹腔に、ふっこうのルビ
ルビがなければ、ゲキコー、カツカザン、フククーで悩まないのですが、ルビ通りにしたい人と修正したい人に分かれます。どちらの点訳がおすすめですか?
【A】このように一般的な語にルビがついている場合は、ルビではなく、その漢字本来の読みを採用します。ルビが、単に漢字を読みやすくするために編集者の親切で振ってあって、点字の仮名遣いと異なる場合は、正しい点字の表記で点訳することをお勧めします。

歴史的仮名遣いの作品や古文が引用されている場合は、原則として現代仮名遣いに準じて点訳しますが、その場合も見逃しやすい点がありますので、注意が必要です。

9.中原中也の詩集で「よごれつちまつた悲しみに」は「つ」は小さく書かれていないのですが、点訳では促音にするべきでしょうか
【A】中原中也の作品は、歴史的仮名遣いで書かれていますので、「てびき」p24 (8)の【備考】に従って書きます。基本的には、現代仮名遣いに直して書きますので、促音で発音するところは促音符を用いて書きます。
ただ、【備考】にありますように、中原中也の作品の特徴を表す必要がある場合は、原文の仮名遣いに従って書くこともできます。その場合は、促音の「つ」だけでなく、「風さへ」「たとへば」の「へ」、「革裘」の「かは」、「願ふ」の「ふ」、「怖気」の「ぢ」なども古文の仮名遣いになります。
タイトルだけでなく、一編の詩全部、または詩集などを点訳する場合は、原文の歴史的仮名遣いをどのように点訳したかを点訳書凡例で断る必要があります。

今回は、漢字の読みについて、この1年の質問を振り返ってみました。正確な読みは基本的で大切なことですが、加えて、文脈にあった自然な読みを心がけたいと思います。