消えゆく凹面?
2022年9月1日
1年ほど前の話ですが……。
ちょっと年配の視覚障害の方から、凹面打ちの点字タイプライターを購入したいと連絡がありました。
これまで、ライトブレーラーを使われてきたので、凹面打ちのものでないと使えないとのこと。
点字タイプライターを扱っている施設等に、取り扱っていないかどうかの確認をしました。
(いずれもホームページ上の取り扱われてる商品の中には、凹面打ちのタイプライターはないことは把握していましたが、もしかすると在庫があったりしないかな、というかすかな期待を込めて)
とある施設の担当者さんは、「凹面打ち」ということを理解してくださいませんでした。
「凹面打ちの点字タイプライターの取扱いはないでしょうか?」
「わかりません」
「凹面打ちがわからないということ?」
「わかりません」
……そういう時代になったのかと思いつつ、別な施設へ確認。
こちらでは、凹面打ちのことをご存じで、話は伝わったのですが、やはり取扱いはありませんでした。
依頼されてきた方は、購入を希望されていましたが、施設内で眠っていたライトブレラーを長期貸し出し、ということでお渡しすることにしました。
年月とともに、こういうケースはなくなるのかもしれません。
点訳ボランティアさんも、ある年代までは凹面打ちのタイプライターを使われていたので、パソコン点訳に移っても、凹面入力で続けています。
パソコン点訳が主流になってからは、最初から凸面入力に切り替えます。パソコン点訳に移行してきた1990年頃からの点訳ボランティアさんは、凸面入力です。
施設内で共有のパソコンを使っているとき、
「あれ~? 変な点字になる! 入力できない……」
「あー、昨日●●さんが使ってたからね。入力設定を変えてくださーい」
とか、凹面入力している点訳ボランティアさんの画面に記号を入力しようとして
「ごめん! 第2カギ入力して。書けない(泣)」
と、切り替えが面倒で入力をお願いしたり、ということも、いつかはなくなっていくのでしょう。
点訳の講習会で、最初のうちは点字板を使っての手打ち。これは凹面。そして、パソコンで凸面へ、と混乱させながら進めてきたことも、凸面書きの携帯用点字器ができたことで、解消されつつあります。
それでも、手打ちの主流である凹面書きを一度は体験しておいてもらいたいので、両方やってもらいます。
中途失明の方が覚えやすいとおっしゃっている凸面書きの点字器。打ったままを読むことができて、覚えやすいそうです。
以前は、凹面書きで点字を覚えてた点訳ボランティアさんが、街中の点字が読めなかった! なんてこともありました。裏からなら読めるのに……と。
この凸面点字器で点字を覚えた中途失明の方が、ある選挙の投票所で点字投票をしようとしたところ、そこには凹面書きの点字器しかなくて、点字投票できなかった、という話も聞きました。
凹面・凸面、両方を準備してもらって、少しずつでも凹面・凸面、どちらでもOKという環境になればいいなと思います。
一度覚えたものを変えていくのは、とても難しいことです。
点字器で凹面で書いてきた者にとって、凸面で書くのは、慣れるまでは本当に難しいです。
どちらか片方、ということではなく、それぞれに合った方法で、点字が拡がっていってくれたらいいなと思います。
文字の表からとか、裏からとか、こんな不思議なことができるのは点字だけです。
これが点字をややこしくもしているのでしょうが、面白いと捉えることもできると思います。
点字体験で、「不思議ー!!」と言ってくれた小学生もいます。
凹面書きの文化も残しつつ、凹面・凸面、どちらにも対応できるような社会であってほしいと思います。 (Y)