点字のおみくじに感謝

                             2025年11月1日

 残暑が続いていた西日本も、ようやくこの時期らしい気温になったことが報じられています。一方、私が住む関東地方は、朝夕はかなり冷え込んできました。短い秋を楽しむ間もなく、冬支度を始めています。

記録的な猛暑が続いた夏の間も、点訳フォーラムには多くの質問が寄せられ、皆様が熱心に点訳に取り組んでおられることが窺えました。私はといえば暑いのをいいことにいろいろなことを先延ばしにしてきましたので、遅れを取り戻すのにだいぶ時間がかかりそうです。

さて、標題のおみくじのことは一時期話題になりましたので、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2025年1月14日付の『点字毎日』に「点字のおみくじがお目見え 東京の新井薬師で3月にも」という見出しの記事が掲載され、興味深く読みました。新井薬師 梅照院は東京都中野区にある真言宗豊山派の寺院で、眼病にご利益があるとされています。そして、記事は次のように続きます。
「日本のおみくじ文化に魅了された中国からの女子留学生の発案に、同区の視覚障害者福祉協会と点訳ボランティアも協力し、視覚障害者もおみくじを楽しめるようにと3月を目指し準備を進めている。
新井薬師の振りおみくじは、筒から細長い棒を1本引き出し、棒についている番号のおみくじを受け取るもの。凶から大吉まで64通りあり、活字では手のひらほどの紙1枚の大きさだが、このすべてを省くことなく点訳し、両面印刷で4ページに整えた。左上を赤いリボンなどで綴じ、右上には音声コードを付け、三つ折りにする。振りおみくじを引く際、点字のおみくじが希望と伝えれば、活字のおみくじとともに受け取ることができる。」(以下略)
実際に手に取って読んでみたいと考えていたところ、「点字付きおみくじ体験&春のランチ会」という同窓会行事が企画されていることを知り、参加することができました。
当日は西武新宿線の新井薬師前駅に集合し、懐かしい雰囲気の商店街を6、7分ほど歩いて目的地に到着しました。お参りを済ませた後、19番の棒を引き、点字のおみくじを受け取りました。表題紙のタイトルのように囲まれた中に「19番 吉」と書かれているのを思わず声に出して読み上げました。そして周りからも自分のおみくじを読み上げる声が聞こえてきて、一瞬にぎやかになりました。
5マス目から「地・沢・臨」という見出しがあり、「この御籤に合う人は運勢向上の時であるから、…」と文が始まります。その後3マス目から「願い事、職業、売買、訴訟、交友、恋愛、結婚、家宅、旅行、方角、待ち人、失せもの、病気、吉数」と小見出し符を用いて項目が列記され、最後に右寄せにして「新井薬師 梅照院」と記されています。皆様にはおなじみのパターンかもしれませんが、初めて自分で読む私にとっては全体像を把握できたことが大変新鮮でした。おみくじは誰かに読んでもらうものと考えていましたが、これならば自分に当てはまることなどを思い起こしながら繰り返し読むことができて楽しみが増えそうな気がします。そして、他の寺院でも点字のおみくじが提供されることを期待したいです。
今回の取り組みは、視覚障害者とのつながりがほとんどなかった外国人による発案と伝えられています。私を含めて点字使用者は、読めないことを当たり前と考えるのではなく、現在の技術と多くの方のサポートを信じて、読みたいという思いを積極的に発信していくことが大切だと感じました。そして点字で読みたいものが増えることによって、中途視覚障害者の点字学習に対する意欲が高まることを願っています。 (T)