視覚障害者の点字理解状況について

わが国で点字の読み書きができる視覚障害者は約3万2千人(10.6%)と言われ、この数字はいろいろなところで使われています。点字の普及率は、視覚障害者の10%前後という言い方もよくします。しかし、この数字は約20年前の調査によるものです。
厚生労働省は、5年ごとに「身体障害児・者実態調査」(近年は、「生活のしづらさなどに関する調査」)を行っていて、障害児(者)の年代別・等級別の数、障害原因、障害発生時期などの基礎的な数値と、生活の状況などを障害別に集計・分析して公表しています。
この調査は「国勢調査」のような悉皆調査ではなく、全国の国勢調査区の中から無作為に選んだ地区(平成23年の調査では4,500地区、平成28年の調査では2,400地区)について調査するもので、いわゆる抽出調査です。したがって、ここに出てくる数値は「推計値」なのですが、国の障害者政策の基礎資料として使われ、また、全国の障害者の状況を知るための唯一の極めて重要なデータです。
一番新しい調査結果は、「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」として、平成30(2018)年4月9日に公表されました。
その中に、「点字の読み書きができる視覚障害者」についての記載はありません。
過去には、平成8(1996)年、平成13(2001)年、平成18(2006)年の調査、古くは昭和40(1965)年の調査で「視覚障害者の点字理解状況」の項目があり、「読み書きともできる」「読めるが書けない」「書けるが読めない」「読み書きともできない」などが障害等級別・年代別に示されていました。冒頭の数字は、平成13(2001)年のものです。この中には、「点字が必要だができない」人が全国で1万7千人(5.6%)との記載もあります。(平成18年の調査結果では、実数の記載はあるものの、全国の推計値が記載されていません。)
ところが、その後の調査では、この項目がなくなったため、全国レベルでの視覚障害者の点字理解状況が分からなくなってしまいました。
IT技術の進歩によって、視覚障害者の情報環境は劇的に改善されつつあり、点字以外の手段でも文字を読んだり書いたりできるようになりました。しかし、読み書きが自由にでき、推敲や読解に適した点字が持つ有効性と重要性は決して色あせることはありません。このように視覚障害者にとって重要な文字である点字の理解状況を、これからも確実に調査し、公表していただきたいものです。
私たちは、点字が読める人たちに向けて、正確で豊富な点字資料を提供する活動をしていますが、合わせて「点字が必要だができない」人たちが点字の読み書きができるように支援する活動も考えていく必要があると思います。たとえば、Lサイズ点字を使えば、晴眼者でも点字を触読することが可能ですので、身近に中途で視覚障害になられた人がいれば、気軽に点字学習を勧め、簡単な文の読み書きができる人を増やす活動も、点字に関わる私たちの大切な役割ではないかと思います。

今年の11月1日(日)は、日本の点字制定130周年記念日という節目の日です。
この機会に、私たちの活動の対象者がどのような状況にあり、その状況がどのように推移しているかを把握して、時代に即した活動を続けていきたいと思います。

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