4字漢語の切れ続きについて
(2021年10月1日)
もう半世紀以上前のことですが、私が点訳を始めた頃には、「漢字4字の熟語は、半分で区切ります。」と教わりました。
当時の日本点字図書館の「点訳のしおり」にもそのような記述がありました。実際、4字漢語の大半は「点訳講習」「調査研究」「針小棒大」など「漢字2字+漢字2字」で構成されているので、「4字は半分で区切る」は、大変便利な目安でした。その上で、「2+2」でないものは続けるという規則でした。
例えば「生年月日」は、「生」+「年月日」で「1+3」、「市町村長」は「市町村」+「長」で「3+1」、「不連続線」は、「不」+「連続」+「線」で「1+2+1」、「経済学者」は「経済」+「学」+「者」で「2+1+1」となり、これらは続けて書いていました。
よく説明に使われた例で、「会計課長は続けるが万年課長は区切る」があります。「会計課長」は「2+1+1」ですが、「万年課長」は「2+2」だからです。もちろん、判断に迷う語もありましたが、当時はそれなりに整理されていました。
ところが、『日本点字表記法1990年版』に、「経済■学者」「結婚■式場」が区切る例として掲載されてから、「2+1+1」の切れ続きに混乱が見られるようになり、それが今でも続いていると思われます。
「経済学者」の表記は変わりましたが、語意識が変わったわけではありません。「経済学者」の語構成は「経済+学+者」で「2+1+1」ですが、「表記法1990年版」で新たに採り入れた「複合名詞は、3拍以上の意味のまとまりが二つ以上あれば、その境目で区切る」という規則の適用に当たって、「経済学者」を「2+(1+1)」≒「2+2」と解釈して「経済■学者」と区切ることにしたのです。表記法に語例として挙げられた語は、区切る書き方が一挙に定着しましたが、「2+(1+1)」の解釈については、線引きが難しく、表記の揺れが多く見られるようになりました。
「表記法1990年版」に対応して発行された『点訳のてびき第2版』では、「2+(1+1)」の語は、(1+1)が3拍以上の自立した意味のまとまりであれば、区切って書くこととしました。この考え方は「てびき3版」そして「4版」でも継承されています。なお、2字2拍の漢語は3拍以上の漢語と同じ扱いをすることも継承されています。
このように、「点訳のてびき」では、「3拍以上の意味のまとまりが二つ以上あればその境目で区切る」という語の切れ続きの大原則を「2+(1+1)」にも適用することによって、点訳上の迷いと表記の揺れを少なくしようとしています。
点訳フォーラムに寄せられる質問にも、「冷蔵庫内」「利用客数」「滑走路上」など、同じような語構成についての質問が多くみられますが、いずれも「2+(1+1)」として区切る書き方を勧めています。
とはいうものの、「てびき」の「自転車道」「自動車内」の例のように続けると判断している語もあります。「自転車」「自動車」などは、「自転」+「車」、「自動」+「車」としてできた語と考えるのは難しく、切り離すと不安定な形になります。「自転車道」は「自転」も「車道」も3拍以上の意味のまとまりですが、「自転」と「車」は切り離せないと考えて一続きにしています。「自動車内」も同じです。
繰り返しになりますが、4字漢語のうち、「2+2」(点訳■講習)は区切り、「1+3」(生年月日)、「3+1」(市町村長)、「1+2+1」(不連続線)は続けて書くことは、昔も今も変わっていません。
前述しませんでしたが、4字漢語には「1+1+1+1」という組み合わせもあります。この場合は語句のまとまりなどを考慮して、「都道府県」「士農工商」のように一続きに書いたり、「東西■南北」「冠婚■葬祭」のように2字ずつに区切って書いたり、また「生■老■病■死」と1字ずつ区切って書く語がありますが、これもある程度定着しています。
そのほか、漢字4字でできている語は、「切妻屋根」「蕎麦懐石」のように和語を含む場合や、「懐中時計」「睡眠不足」のように連濁する場合もありますが、今回は、迷いが生じやすい「てびき」p70の(2)を中心に、これまでの経緯も含めて書かせていただきました。
点訳する上での迷いの多くは「2+1+1」ですが、点訳フォーラムでは、「てびき」の考え方を基に、「点訳に関するご質問にお答えします」にもQ&Aを掲載していますし、語例集にも例を出来るだけ多く収載していますので、参考にしていただければと思います。(F)